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夢の無い幻想  作者: 誤道
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1、今の状況

胃の中の物をぶちまけた。固形物なんて無い、嫌でも馴染んだ胃液だけだ。

すっぱい。ああ、梅干しが食べたい。久々にそう思う。

弱弱しく笑うと、どうやら顔に出ていたらしく又蹴っ飛ばされる。


「*****!**********!…***」


何度か蹴られ続け、ぴくりとも動けなくなった。そりゃそうだ無理もない。

そうして意識は落ちた。


目を開けるとそこには、見た事も無いような女神が居て慈悲の手を差し出してくれる。

そんな馬鹿馬鹿しい夢を久々に見た。…精神的にも、肉体的にも限界なのだろう。

そこはいつもと変わらない、奴隷達の寝ぐらだった。


目が覚めたのは、もうとっくに日が沈み普通の人なら夕食を終える位の時間だ。


「***?…***。****…」


奴隷達の寝ぐらは冷える。防寒具なんて物は無い。お互いで暖を取るしかない。

倒れている俺にも何人かの奴隷がくっついている。優しさで助けてくれてる訳じゃない。

生き残る為には、奴隷同士で余計な事考える余裕はないからだ。

…昔は、それこそ女性と裸に近い格好でくっつくなんて…!と、状況を忘れて、

喜んだフリをした事もあった。そうとでも思わなければ発狂しそうだったから。



興奮する様な女性なんて居る訳がない、それこそ骨と皮だけの奴隷達だけだ。

心配して声を掛けてくれたこの子は、まだここに来たばっかりだ。

だから、声をかけるなんて無駄な事に体力を使う。でも、だからこそだろうか。

…ああ、久々に人間に会った気分だ。何とか顔の筋肉を動かし微笑みかける。

ありがとう、と。

緩いまどろみが襲う。皮肉な笑いのまま、そのまま再び眠りに落ちた。




そういう事は、所謂突飛な事が原因で発生するのが通常だと思っていた。

そう、“異世界”なぞに行くという事は。


雷に打たれるでも良いし、リアルで死んじゃって…とか、ゲームしてたらなど

なにかしろ、起承転結の起に値する事で初めて発生する事だと。


そういう波乱万丈があれば人生捨てたもんじゃない、そう思えるのになとお気楽に考えていた。

特殊な力とか有って英雄の様になれるのではと、夢見た自分をひどく呆れる。


そもそも言葉すら通じやしねえ。テンプレだとサクサク皆話してるイメージなのにな…。


目覚まし時計が鳴らない。しかも寒い。羽毛布団蹴っ飛ばしたかな…?

今日も会社に行きたくねえな…、…馬鹿言ってないで起きるか。

よっ と、タオルケットを払いのけた処までは体が覚えている。


面前には一本の剣があり、誰かに突き付けられている。理解が追いつかない。

狭い1kの何処にこんな大勢が居たんだろうか。周りには人間が居る。 人間?

我が家の一体何処に…?俺はベットの上じゃ…?

どうみても林の中ですよ?しかも、周りの人間の格好はこれまた凄い。

俺達は盗賊だぜっ、有り金だしなへっへっへ…と、言ったらさぞ似合いそうだ。

「え、夢?お芝居?なに?なにこ…」


ガンッ!


寝起きだったのと、水と安全はタダなんて国の人間に“逃げる”なんて選択肢は選べない。

まあ、きっと逃げられはしなかっただろうが。


その後は文章にすれば一言、人買いに売られた、ただそれだけだ。

体で学んだ…、嫌でも知った事が幾つかある。


・ベッタベタの魔法ありき、さして発達してない武器が幅を効かせている。

・獣人やエルフ、有翼人種が居る。

・奴隷制度が公的にある。

・日本語、片言の英語も通じない。何言ってるか理解が出来ない。

・俺に人並み外れた力とか一切無い。



一つ目、二つ目はまだいいさ。ファンタジー いっやふー!って思えるよな。

残りがつらすぎる。現状を改善する為の余地が一切無いんだから。

そ、その内なんかイベントが起きるんだろ…、それまでの辛抱だ。




数か月位経ったと思う。途中から億劫になって数えるのを放棄した。

元々痩せ形の体は、冗談ではなく骨と皮しかない。生きてる事が不思議な位に。

毎日毎日、粘土みたいな白い物運ばされている。何だか分からないが重い。

ドラクエの主人公は、神殿造りをさせられていたけれどこれは外壁材料には見えない。

血の気の失せた顔でフラフラ運んでいた時に、落っことした。

そんでもって冒頭の状態ってわけだよ。


俺を蹴っ飛ばしたのが豚面野郎その1、見張りのオークの1匹(断固、人とは呼ばない!)

心配して話しかけたのが猫面の女の子。…リアルで見ると萌なんて無く、結構精悍な顔。

奴隷の寝ぐらのリーダーらしきエルフ。疲れた顔と方耳の、かつては美人だったであろう女性。

この間死んだが、恐らく錯乱していてふと正気になった時は親切だったドワーフの爺さん。

身を寄せ合う事をしない(されても困る)、片目のリザードマン。…鱗は冷たいからな…。

俺に全身くっついて暖を確保してるのが小妖精。その羽は無残にも毟られている。


こいつらが俺の家族だ、1名は家族だっただが。何言ってるかさっぱり分からなくとも、だ。

俺以外の奴隷がどのようにこき使われているかは分からない。

さっきの作業は俺一人と、見張りの豚野郎共が交代で監視しているからだ。

この妖精は魔力関係でこき使われているのかね、知らんけど。あの白いの運べそうにないし。




ああ、さっさとあの漠然と日々を過ごしていた頃に戻りたいもんだ…。












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