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初めての、仕事

 一番初めは簡単な仕事だった。



「キールのためにどうしてもお金がいるの、何だってするから」



 そう言ったティアにラルゴが渋々紹介したのは、表通りに大きな屋敷を構える中年の商人に嫁いだ年若い妻からの依頼で、幼馴染の男との駆け落ちを助ける仕事だった。花売りに扮したティアが妻と幼馴染との手紙を幾度も運び、十分な計画を練ることができた二人は手に手を取り合って無事に国境を越えたと聞いた。

 妻からの報酬の一部をティアに渡す時、「俺がむやみやたらと屋敷に出入りしちゃあ、おれ自身が浮気相手にされちまうからなあ、助かったよ」と言って、ラルゴはティアの頭を撫でてくれた。



 ティアがもう少し大きくなると、ラルゴは表の市場に出せない品物の運搬をティアに任せるようになった。ラルゴ自身はティアがこの仕事にますます深く関わっていくことに、いい顔はしなかったが、キールの治療費にお金がかかることを姉弟以外で誰よりも知っていたのもまたラルゴであった。


 小さな少女であるティアが、そのような仕事に携わっているとは誰も思わないらしく、ティア自身の要領の良さともあいまって、ティアは実に優秀な仕事人となった。そうやって仕事を重ねるうち、強盗の肩担ぎのような汚い仕事、遂には暗殺稼業にまで手を出すことになったのである。






 暗殺には常に自分自身の身の危険が伴うものである。


 ティアはキールのように病気を抱えているわけではないが、病弱な母から生まれたこともあって、体格は大柄でないどころか華奢で小柄なほうであるし、力も並みの女性よりも弱いくらいである。それでも今日までティアが無事に仕事を続けることができたのは、周囲の状況を的確に判断することができる頭の良さと冷静さ、身のこなしの素早さのおかげである。

 ティアがこの仕事を始めたころから、ラルゴはティアに周囲の人間の観察方法や自分の身を守るための身のこなし方、そして武器としてのナイフの使い方を教えてくれた。


 始めはうまく操れなかったナイフであったが、使い方の要領を覚えるとその後はよく手に馴染むようになった。ティアにとってナイフは相性のよい武器だったようである。ティアを上達させたのは、弟のために身も心も強くなりたい、強くなって治療費を稼ぎたいという思いだった。

 事実、ティアがこの仕事で稼いだお金によって、キールの治療費は賄われていた。それでも、キールの病気はよくなる気配はなく、ティアが買う薬で病気の症状が緩和されている程度である。最近は昼間からベッドに臥せっていることも多い。優しいキールが、男である自分が働かずにいることを気にしていて、ティアが家帰る頃には無理をして元気に振舞っていることにもティアは気付いていた。



――――もう二度と家族を失いたくない。心が無くなってしまうようなあんな思いはもうしたくない。



 ティアは、帰宅して家のドアを開けるたびに不安になる。弟が居なくなって、自分が一人になってしまうのではないか、と、そんな思いに囚われる。


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