第五十四章 誰のために
次の日。
林川は前日のメモを開いた。
「まだ使えるものを、捨てない方法。」
その一行を見て、少し考えた。
もし本当にこういう仕組みを作るなら、最初に考えなければならないことがある。
――誰のためなのか。
生活に困っている人だけなのか。
収入が少ない人だけなのか。
高齢者だけなのか。
子どもがいる家庭だけなのか。
林川は一つずつ書き出した。
そして、すぐに消した。
対象を細かく決めれば、必要な人を見つけやすくなる。
その一方で、利用するために自分の生活を詳しく説明しなければならなくなる。
何を持っているのか。
いくら収入があるのか。
なぜ困っているのか。
どこまで確認する必要があるのか。
林川はペンを止めた。
以前、自分自身もいくつかの制度を調べてきた。
制度を利用するためには、条件を確認し、書類を揃え、事情を説明する必要がある。
それが必要な場合もある。
しかし、助けを求めるたびに、自分の生活を説明しなければならないとしたら。
それを嫌がる人もいるだろう。
「困っている人だけが使う場所」
そう決めてしまえば、その場所に入ること自体が、本人にとって負担になるかもしれない。
林川は新しいページを開いた。
今度は、別の言葉を書いた。
「提供する人と、利用する人を固定しない。」
例えば、ある人が服を提供する。
別の日には、その人が別のものを受け取る。
ある会社が食品を提供する。
その会社で働く人の家族が、別の支援を利用することもある。
住民が物を持ち寄る。
必要になったときには、自分も利用する。
そう考えれば、「助ける側」と「助けられる側」を最初から分ける必要はない。
林川はそこで一度、手を止めた。
「でも、これだけでは足りない。」
物を置く場所が必要だ。
管理する人も必要だ。
食品なら安全確認も必要になる。
数量を管理しなければ、一部の人だけが大量に持っていく可能性もある。
無料だからといって、何でも無制限に持っていけるようにすれば、仕組みそのものが続かなくなる。
林川はノートの端に、小さく書いた。
――無料にすることと、無制限にすることは違う。
その言葉を見ながら、考えた。
必要な人に渡す。
しかし、渡し方にもルールがいる。
ルールを作る。
しかし、ルールを厳しくしすぎれば、今度は利用できる人が減る。
どこで線を引くのか。
林川は答えを出さなかった。
ただ、問題を一つずつ分けていった。
夜になった。
窓の外は暗くなっていた。
机の上には、昨日より少し増えたメモが並んでいる。
まだ計画書と呼べるものではない。
それでも、林川には一つだけ分かったことがあった。
物を循環させるだけでは、仕組みにはならない。
人が参加できる仕組みにしなければならない。
提供する人。
運ぶ人。
確認する人。
管理する人。
利用する人。
そして、そのどれか一つだけではなく、時には役割を変える人。
林川は最後に一行を書いた。
「人を固定された立場で見ない。」
書き終えると、ペンを置いた。
その言葉が本当に正しいのかは、まだ分からない。
だからこそ、また調べる必要がある。
林川はノートを閉じた。
答えを決めるには、まだ早かった。




