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約束の向こう側  作者: 亀
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第三十一章 雪のあと

三月の初め。


雪は少しずつ減っていた。


道路の端には、まだ黒くなった雪が残っている。


昼間に気温が上がると、表面が少し溶ける。


夜になると、また冷える。


凌は自転車を走らせながら、その様子を見ていた。


二月の間は、雪が降るたびに道路の状況が変わっていた。


歩道が狭くなる。


道路の端に雪が積まれる。


人が歩く場所が変わる。


自転車では通りにくい場所もあった。


車も、いつもと同じようには走れない。


日本に来る前から、金沢には雪が降ることを知っていた。


しかし、実際に暮らしてみると、雪は単に「降るもの」ではなかった。


降ったあとに、どうするか。


それが生活に関係している。


凌は自転車を止めた。


道路脇に積まれた雪を見る。


雪がある。


だから除雪する。


それは分かる。


では、どこまで除雪するのか。


誰がするのか。


どの道路を先にするのか。


歩道はどうするのか。


雪が解けた水はどうなるのか。


夜に凍った場合はどうするのか。


考えているうちに、問題が一つではないことに気づいた。


凌はスマートフォンを取り出した。


「除雪」


「融雪」


「歩道」


「凍結」


とメモする。


そのあと、いくつかの自治体の資料を調べた。


道路の種類によって対応が違う。


交通量の多い場所。


生活道路。


歩道。


坂道。


それぞれ条件が違う。


凌は資料を読みながら、ノートに書き写した。


すべてを一つの方法で解決するのは難しい。


そのことが、少しずつ分かってきた。


例えば、水を使って雪を溶かす方法がある。


しかし、水を使えば、それで終わりではない。


水量はどうするのか。


気温が低いときはどうなるのか。


道路の状態はどうなるのか。


設備の費用はどうするのか。


維持管理は誰がするのか。


塩などを使う場合にも、別の問題がある。


使う量。


周囲への影響。


道路や設備への影響。


それぞれ確認する必要がある。


凌はそこで一度、パソコンを閉じた。


簡単な話ではない。


けれど、だからこそ面白かった。


問題を単純化してしまえば、文章はすぐに書ける。


「雪をなくせばいい」


それだけなら簡単だ。


しかし、現実にはそうはいかない。


費用がある。


人がいる。


道路がある。


住んでいる人がいる。


毎年、天候も違う。


だから、実際に使える方法を考えるなら、条件を一つずつ確認しなければならない。


凌は再びパソコンを開いた。


今度は、新しい文書を作った。


タイトルだけを書く。


「初雪融雪・除雪計画」


その下に、


「草案」


と書いた。


まだ本文はほとんどない。


それでも、タイトルだけは残した。


その日は、そこで作業を終えた。


机の横には、先日書き始めたごみ収集の文章もある。


二つの文書が並んでいた。


一つは、ごみ。


もう一つは、雪。


どちらも、自分が日本で暮らしていて、実際に目にしたものだった。


凌は二つのファイルを保存した。


そして、ノートに書いた。


「見たものを、そのまま問題だと決めない。」


「まず、仕組みを調べる。」


その二行を書いたあと、しばらく考えた。


自分が見たものだけでは、全体は分からない。


だから調べる。


調べた結果、最初の考えが間違っていることもある。


それなら、書き直せばいい。


凌にとって、それは特別な方法ではなかった。


分からないなら、確認する。


間違っていたら、直す。


必要なら、もう一度調べる。


それだけだった。


窓の外を見る。


雪はまだ残っている。


けれど、冬は少しずつ終わりに近づいていた。


凌はパソコンを閉じた。


二つの文章は、まだ完成していない。


それでも、少しずつ形になり始めていた。

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