第9話 どこかのダンジョンで今日もまた彼女は笑っているに違いない
病院で寝ている間に、DランクからBランクに昇格した。
一つ飛ばしての昇格は異例だけど土龍の討伐の功績が認められたのだ。
キャスが上手く交渉したのか、誤魔化したのか、そこら辺の事情は分からなかったけど、ブッラクボックスの一件は何も聞かれることはなかった。
普段通りの日常が続いている。
いや、普段通りではないか。
筋力を十倍にする魔法の副作用は大きかった。
あの時のキャスの処置は的確だったけれど、一旦ずたずたになった筋肉はなかなか回復しなかった。
キャスは何度もお見舞いに来て謝っていた。
一つ飛ばしの昇格はそのせいもあるのかもしれない。
そのキャスは、ついこの間A級に昇格したと先生が教えてくれた。
あれ、S級だっけ?
まあいいや。
いまでは煌めくスター冒険者。
特に鎮痛魔法の評価が高い。
痛みを和らげるだけじゃない。
不安や恐怖を克服する魔法として、その研究も進めているらしい。
ついこの間まで一緒に冒険していた相棒なのに、随分引き離されてしまった。
頑張らないと。
しばらく前から、リハビリを兼ねてダンジョンに出てクエストに参加している。
まだ、剣は振れないけれど、できることはある。
パーティの戦闘を記録して、分析する。
それが今の仕事。
*
「鎮痛作用で恐怖を克服する魔法!」
相変わらずキャスの魔法のネーミングセンスは壊滅的。
しかし効果は抜群だ。
魔法をかけられたキャサリンは、地面に突き立てた槍に寄りかり、牛頭馬頭の怪物を挑発する。
二体のモンスターが咆哮した。
キャサリンは動じない。
槍を蹴り上げ、手の中で回転させて見得を切る。
同時に襲いかかってきた攻撃を正面から受け止め弾き返す。
がら空きの胴めがけて槍を一閃。
牛頭と馬頭が悲痛な声を上げて攻撃を繰り返すも、華麗に躱し、或いは跳ね返して、キャサリンは狂笑しながら牛頭と馬頭をなますに切り刻む。
格の高いモンスターでも、断末魔の叫びは豚と同じだ。
満身創痍の牛頭馬頭がほとんど同時に地面に倒れた。
肩で息するキャサリンは近付いたキャスにも反応して槍を繰り出した。
キャスは冷静に槍を蹴り飛ばした。
素早く懐に潜り込んで、手の甲で平手打ち。
「あれ、キャスさん」
「正気に戻った?」
「あ、終わったんですか」
キャサリンが周囲を見渡して、闘いの惨状を前に
「うわ、酷い」
と一言。
「いい動きだったけど。魔法はまだ改良の余地があるわね」
血まみれのキャサリンにタオルを渡したキャス。
「じゃあ、戦闘後の検分の儀式を始めましょうか。ギル、記録をお願い」
岩の上に置いたブラックボックスのランプが点滅した。
「……あの、キャスさん」
顔に付いた返り血と鼻血を拭きながらキャサリンが尋ねる。
「なに?」
「ブラックボックスに名前を付けているんですか?」
「そうよ」
「え、何故です? 単なる通信機ですよね、これって」
「ギルは最初の相棒だったの。とあるクエストで亡くなってしまったけれど」
キャスは目を伏せ、過去を振り返る。
「今でも彼は私の相棒よ」
それを聞いたキャサリンは、涙を浮かべていた。
「キャスさん! キャスさんは仲間想いなんですね。尊敬します!」
「ありがとうキャサリン。でも、いつまでも泣いてばかりはいられないわ。じゃ、始めましょうか」
ブラックボックスのランプがオレンジ色から緑色に変わった。
「はい! 検分の儀式を始めます。検分者はC級剣士キャサリン」
「S級魔法使いキャス。場所は遺跡第十二層……」
妖精通信 おわり




