表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
革命的サヨク女子な私は、打倒すべき資本主義の権化(御曹司)に全力で買収(プロポーズ)されています  作者: 三不可多 輝生亜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

第一話:鉄パイプと運命の出会い

万国の労働者よ、団結せよ!

 ……あ、申し遅れました。私の名前は赤嶺革命(あかみね・レミ)

 都立高校に通う、どこにでもいる普通の女子高生――。

 なんて言うと思った?

 残念。私の正体は、この腐りきった格差社会を粉砕し、真の平等を実現するために戦う『()()()』の若き乙女よ!

 趣味はカール・マルクス『資本論』の読書。好きな四字熟語は「階級闘争」。

 普通の女子高生が推し活に励む時間を、私は「ブルジョワジーの打倒」と「不当搾取の撤廃」に捧げている。恋? タピオカ? そんなものは資本家が労働者を飼い慣らすためのパンとサーカス(目眩まし)に過ぎないわ!


 ……そう。この「三井菱みついびし」という、なんか強そうな名前の男に出会うまでは。


 ◇


すべてが始まったのは、あの日。

私が"過激派極左系組織『新核派』"のメンバーと一緒に、ブラック企業のビル前で鉄パイプを片手にシュプレヒコールを上げていた時のこと。


「……万国の労働者よ、団結せよ!」

 拡声器から響く自分の声が、冬の曇り空に吸い込まれていく。

 私、赤嶺革命(レミ)は、都内某所の交差点で、機動隊の分厚い盾の壁を睨みつけていた。

 手には旗。心にはマルクス。そして頭の中には、搾取なき理想郷への情熱。

「資本家どもの横暴を許すな! 労働者の権利を奪還するぞーっ!」

「「「おーっ!!」」」

 背後で、親友の《前進(ぜんしん) ゲバラ》が白ヘルを深く被り直し、竹竿を突き上げる。

 彼は我が組織の突撃隊長。幼馴染の腐れ縁だけど、現場主義を貫く熱い少年だ。

「レミ、いいアジ演説だ! これなら日和見主義の連中も目を覚ますに違いない!」

 理論派の《左門(さもん) 左愛さえ》も、眼鏡のブリッジをクイと押し上げながら頷いた。

 彼女は清楚な見た目に反して「左」への愛をアナーキーな破壊衝動に変える電脳工作員。

「今日のレミのシュプレヒコール、音響学的に見ても大衆の扇動に最適化されているわ。階級闘争の激化は避けられないわね」

 だが、現実は甘くなかった。


「前へーーッ!」

 機動隊の一斉前進。鈍い音を立てて盾の壁が迫る。

「きゃっ……!?」

 もみ合いの中で足を取られた。コンクリートの冷たい感触。逃げようとした拍子に、右足の脛を鋭い衝撃が襲う。

「痛っ……!」

 見れば、倒れた看板の角で足を深く切っていた。鮮血が、私が愛用している古着のスカートを汚していく。

 混乱するデモの喧騒。ゲバラたちの叫び声が遠のく。

(ここまでなの……? 私は、革命の途上で、こんな路傍に朽ち果てるというの……!?)

 その時だった。

 アスファルトを叩く無慈悲な喧騒が、ふっと消えた。


「……大丈夫ですか、お嬢さん」

 頭上から降り注いだのは、冬の陽だまりのような、温かくも透明感のある声。

 顔を上げると、そこには「光」が立っていた。

 艶やかなブロンドの髪、彫刻のように整った鼻梁。

 彼は、デモの土埃など微塵も寄せ付けない、純白の高級スーツを纏っていた。

「ひどい怪我だ。すぐに手当てをしないといけない」

 少年は膝をついた。その膝が汚れることなど、1ミリも気にしていない様子で。

 彼はポケットから一枚の布を取り出した。

「ブルジョワの……施しなど……っ」

 反射的に拒絶しようとした言葉が、喉に張り付いた。

 差し出されたのは、最高級シルクの光沢を放つハンカチ。その隅には、金糸で『Mitsuibishi』の刺繍が踊っている。

「じっとしていて。痛むだろう?」


 彼の手が、私の傷口に触れる。

 熱い。

 彼の指先から、莫大な資本の流動性――ではなく、得体の知れない熱量が流れ込んでくる。

 彼は手際よく、その1枚で家賃が払えそうなほど高価なハンカチを、私の泥だらけの足に巻きつけた。

「僕は三井菱(みついびし) 権力けんりょく。君のような情熱的な瞳をした人は初めて見たよ」

「み、三井菱……? 権力……!?」

 その名前のあまりの「支配階級」ぶりに、脳内の資本論が激しいエラーを起こす。

 だが、彼の微笑みはあまりにも神々しく、私の心の防壁バリケードをやすやすと乗り越えてきた。

「また会おう。革命の乙女」

 彼はリムジンのドアを開け、去り際にウインクを投げる。

 エンジン音ひとつさせず走り去る高級車を、私は座り込んだまま見送ることしかできなかった。


革命(レミ)! 無事か!?」

 駆け寄ってきたゲバラが、私の足元を見て絶叫する。

「な、なんだこのハンカチは! 触れるだけで物価が上がりそうなほどの高級感……! レミ、まさか敵の心理戦プロパガンダに屈したのか!?」

「違うわ、ゲバラ……これは……これは……」

 左愛が隣で無言のまま、タブレットで三井菱の株価チャートを高速スワイプしている。

 私は、胸の鼓動が激しく打ち鳴らされるのを感じていた。

 これは、闘争の合図ではない。

 新核派の教義にも載っていない、未知のエネルギー。

(私……もしかして、権力(けんりょく)に屈しちゃったの……!?)


 万国の労働者よ、助けて。

 夕闇の中、私の足元に結ばれた白銀のハンカチだけが、妖しく、そして美しく輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ