世界ごと、私に貢いで?
数年後、世界は一つの「地雷系」という名のインターフェースに支配されていた。
かつての私が持っていた数百億ドルの資産など、もはや誤差に過ぎない。
今の私の総資産は数兆ドルの域に達し、SNSのフォロワーは数億人を超えた。
私のYouTubeライブの通知が鳴るたび、ニューヨークからロンドン、東京に至るまで、すべての市場参加者が固唾を呑んで見守る。
私が「この仮想通貨、まじゴミすぎて病む」と呟けば、一国のGDPに匹敵する資本が蒸発し、私が「このリップ、発色神。みんなで買お?」と微笑めば、関連企業の株価はストップ高を記録する。
私は、人類史上最も巨大な「感情のレバレッジ」を操る神になったのだ。
「……あー、今日も世界が私の顔色伺ってる。まじ、ウケる……」
超高層マンションの最上階。
壁一面のモニターには、世界中の経済指標がリアルタイムで投影されている。
だが、今の私にとってそれは、かつての老トレーダーが愛した「分析対象」ではない。
私の気まぐれに反応する、巨大な「電子ペット」のバイタルデータに過ぎない。
私は、鏡の前に立つ。
70代の私が追求した「無駄を削ぎ落とすミニマリズム」は、ここにおいて究極の歪みを見せていた。
人間関係も、思い出も、すべて捨てた。
部屋にあるのは、自分を飾るための最高級のフリルと、世界を操作するための端末。
そして、私の胸元を飾る、物理的な重み。
「ねぇ……これでも、まだ足りないの? ぴえん、私ってば強欲すぎ」
私は、贅肉一つない華奢な指先で、自分の胸を乱暴に、しかし愛おしそうに弄り始める。
数億人の視線。
数兆ドルの資本。
それらすべてを「りのあ」という小さな肉体に凝縮し、自らの手で物理的に圧迫する。
その触覚的な痛みと快楽だけが、私がこの巨大な「システム」と繋がっている唯一の証拠だった。
かつての私は、数字の中に永遠を見ようとした。
今の私は、自分の肉体を弄り、歪ませることで、世界そのものを愛撫しているのだ。
世界経済という巨大な「パパ」から無限の資本を吸い上げ、それを自分という偶像の美しさを維持するためだけに、一瞬で揮発させる。この循環。
この、あまりにも合理的で、あまりにも非人間的な「自己完結」
「……はぁ、……っ、あは。……もっと。もっと私を熱狂させてよ。世界ごと、私に貢いで?」
私はカメラを見つめ、何億人もの視聴者の前で、乱れた服の隙間から露わになった自分の肌をなぞる。 倫理も、経済学の常識も、すべては私の指先の動き一つで書き換えられるコードに過ぎない。
合理性と快楽。
老成した知性と少女の衝動。
それらが完全に融解し、私は自分自身の美しさに、そして自分自身の支配力に、永遠に終わることのない恍惚とした「自己承認」を続けている。
私の指先が、自分の鼓動を強く、強く感じ取るたび、世界のマーケットもまた、同じリズムで痙攣していた。
「……まじ、私……神すぎて草。……一生、私のことだけ見ててね?」
モニターの中で、日経平均のラインが、私の呼吸に合わせて美しく、絶望的な曲線を描きながら跳ね上がった。




