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Lost13 無名の青年が無名で終わる物語  作者: JHST
第一章 初級冒険者、冒険解説職を雇う
9/21

⑦冒険解説職の男

「わ、分かりました」

 項垂れる。

「そうそう。素直な方が、しぶとく生き残れるからさ」

 やや呆れながらも、世話焼きな表情を見せるマーガレット嬢は、慣れた手つきで、カウンターの下から羊皮紙を取り出した。

「それじゃぁ、この申込書に目を通してから署名して。その間に、担当者を連れて来るから」

「………はぁ」

 そう言って彼女はカウンターの奥へと消えていく。


 取り残された俺は、自分の情けなさを散らすように手で顔を拭うと、改めて申込書を手に取って文章を眺めた。

「何々………基本的に冒険解説職(チュートリアラ―)は魔物と戦いません、冒険者の荷物も持ちません、回復もしません、夜の番もしません………はっ、何もしないのと同じじゃねぇか」

 しません、しません、しません、そればかりである。いっその事、飲み食いも息もしませんとまで書いた方が面白くなる。

 幸い、冒険解説職(チュートリアラ―)への報酬が、使った回復薬(支給品)を含めた清算となる為、後払いである事は正直有難い。移動にかかる馬車代、出発前の携帯食代を除けば、この依頼を達成しない限り、今日の宿代すら手元に残らない。

「………失敗は出来ねぇ。俺は冒険者の頂点に立つ男なんだ」

 予想外の展開になったが、子どもの頃を夢を叶える為なら、冒険者解説職(チュートリアラ―)くらい使いこなしてやる。今更他人に笑われたって、パーティのいない俺にとっては、痛くも痒くもない。

 そう割り切る事にした。


「ほら! さっさと行きなさい!」

「分かってるから! ご飯くらいゆっくり食べさせてぇ!」

 食堂から聞き慣れた中年女性の声と、知らない若い男の声が交互に聞こえて来た。

「ほら、つれて来たよ!」

 マーガレッタ嬢に背中を押し突かれながら現れた黒髪の男が、冒険解説職(チュートリアラ―)なのだろう。口の中に残っている食べ物を無理矢理飲み込もうとしている彼は、首から下を軽めの革鎧に革の籠手と脛当て。腰には装飾のない市販の片手剣(ショートソード)に黒い剣。態度はともかく、年上のように見えるが、装備一式を見る限り、初級冒険者と同じ姿恰好である。


「え、この人ですか?」

 思わず聞いてしまった。

「そうだよ。アリアスの冒険者ギルド所属の冒険解説職(チュートリアラ―)。その余り物さ」

「余り物って!? おばちゃん、それは酷いよ! 今日は、たまたま! そうたまたま、仕事が入っていなかったんだ!」

 未だ口からパンがはみ出ている男が、必死に言い訳を繰り返す。

「たまたまも偶然も関係ないね! 働かざる者食うべからず! あんたに断る権利なんて元々ないんだからね!」

「そんな、女性がタマタマなんて下品な—――おぐほぉっ!」

 呆れたマーガレッタ嬢に横腹を思いきり突かれ、冒険解説職(チュートリアラ―)の男は口の中を強制的に飲み込まされた。そして喉に詰まらせたのか、腰の水筒を全て飲み干し、命を保つ。


 この人は駄目かもしれない。

 俺は素直にそう思った。

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