⑦冒険解説職の男
「わ、分かりました」
項垂れる。
「そうそう。素直な方が、しぶとく生き残れるからさ」
やや呆れながらも、世話焼きな表情を見せるマーガレット嬢は、慣れた手つきで、カウンターの下から羊皮紙を取り出した。
「それじゃぁ、この申込書に目を通してから署名して。その間に、担当者を連れて来るから」
「………はぁ」
そう言って彼女はカウンターの奥へと消えていく。
取り残された俺は、自分の情けなさを散らすように手で顔を拭うと、改めて申込書を手に取って文章を眺めた。
「何々………基本的に冒険解説職は魔物と戦いません、冒険者の荷物も持ちません、回復もしません、夜の番もしません………はっ、何もしないのと同じじゃねぇか」
しません、しません、しません、そればかりである。いっその事、飲み食いも息もしませんとまで書いた方が面白くなる。
幸い、冒険解説職への報酬が、使った回復薬を含めた清算となる為、後払いである事は正直有難い。移動にかかる馬車代、出発前の携帯食代を除けば、この依頼を達成しない限り、今日の宿代すら手元に残らない。
「………失敗は出来ねぇ。俺は冒険者の頂点に立つ男なんだ」
予想外の展開になったが、子どもの頃を夢を叶える為なら、冒険者解説職くらい使いこなしてやる。今更他人に笑われたって、パーティのいない俺にとっては、痛くも痒くもない。
そう割り切る事にした。
「ほら! さっさと行きなさい!」
「分かってるから! ご飯くらいゆっくり食べさせてぇ!」
食堂から聞き慣れた中年女性の声と、知らない若い男の声が交互に聞こえて来た。
「ほら、つれて来たよ!」
マーガレッタ嬢に背中を押し突かれながら現れた黒髪の男が、冒険解説職なのだろう。口の中に残っている食べ物を無理矢理飲み込もうとしている彼は、首から下を軽めの革鎧に革の籠手と脛当て。腰には装飾のない市販の片手剣に黒い剣。態度はともかく、年上のように見えるが、装備一式を見る限り、初級冒険者と同じ姿恰好である。
「え、この人ですか?」
思わず聞いてしまった。
「そうだよ。アリアスの冒険者ギルド所属の冒険解説職。その余り物さ」
「余り物って!? おばちゃん、それは酷いよ! 今日は、たまたま! そうたまたま、仕事が入っていなかったんだ!」
未だ口からパンがはみ出ている男が、必死に言い訳を繰り返す。
「たまたまも偶然も関係ないね! 働かざる者食うべからず! あんたに断る権利なんて元々ないんだからね!」
「そんな、女性がタマタマなんて下品な—――おぐほぉっ!」
呆れたマーガレッタ嬢に横腹を思いきり突かれ、冒険解説職の男は口の中を強制的に飲み込まされた。そして喉に詰まらせたのか、腰の水筒を全て飲み干し、命を保つ。
この人は駄目かもしれない。
俺は素直にそう思った。




