④勝利と油断
「っしゃぁぁぁっ! 見たか!」
糸を吐き出す巨大な腹部が石の地面を転がり、切断面から体液を巻き散らしながら六脚蜘蛛がその場に崩れ落ちる。頭胸部はその場で足をばたつかせ、最後の瞬間まで藻掻いた。
そして数秒後に動きが止まる。
「けっ! 何層だか知らないが、一対一なら負けねぇぜ!」
だが、すぐ後ろから聞こえてくる、岩床を短く小突く音。
もう一匹。
振り返ると、そこにはもう一匹の六脚蜘蛛が迫っていた。
既に長い脚の間合い。
「しま―――つ!」
「は、離れてください!」
瞬間。
六脚蜘蛛の頭胸部の側面に、人の腕程の赤い槍が突き刺さる。
「くっ!」
何も考えずに床を蹴って後方へと下がった直後、六脚蜘蛛は小爆発と共に炎に包まれた。
「ロロ!?」
振り返った先には、上半身を起こしながら魔導杖をこちらへと伸ばしていたロロがいた。肩を揺らす程に荒い呼吸だが、その眼はしっかりと向けるべき先を睨んでいる。
「す………すいません。遅くなりました」
「いや、その………何だ、助かったのは俺の方だ」
何故だが言葉が紡ぎ辛くなっていく。
俺は首後ろを何度も撫でながら視線を泳がせ、焼け焦げた蜘蛛の横を通り過ぎながら彼へと近付いていく。
「………あ、ありがとうな」
人生で初めて言ったかのような下手糞な感謝の単語だった。自分でも言い終えてから、良く分からない感情が腹から耳の先まで込み上げてくる。
周囲の索敵を終えた俺は、目を覚ましたロロと一緒に改めて現状の確認を行った。
「すみません。僕が宝箱を開けたばかりに」
足の痛みに耐えながら、自分も起きると強情を張るロロが大きめの岩に寄りかかりながら精一杯の言葉と表情を作る。
「今更気にするなよ」
起きた事は仕方がない。俺は教わった通りに時間を有効的に使おうと天井の穴を見上げた。
「今はどうやって生き延びるか、帰れるかに頭を使おうぜ」
「………はい」
こんな所で死ぬ訳にはいかない。
幼馴染と再会し、腹は立つが、自分が強くなれる道も見つかった。今まで受けてきた訓練と比べれば、呼吸が落ち着いている分、かなりマシである。そう思える自分がいた。




