③未知との戦い
魔物の数は一匹。他の魔物の気配も音も聞こえてこない。
俺は後ろで眠るロロに、一度だけ視線を送る。
「………背後には回れねぇ」
裏に回れば六脚蜘蛛も回転し、背後にいるロロに向かって糸を吐く可能性がある。気絶している彼の顔に糸が計れれば、最悪窒息の危険性がある。
深い層で、遠距離攻撃の要である魔法が使用できなくなる事は避けたい。
「やるしかねぇ! ここには俺達しかいねぇんだ!」
俺は腰の長剣を引き抜いた。体を捻る衝撃で、骨折した腕への痛みが増幅するが、今は耐えるしかなかった。
六脚蜘蛛もこちらの構えに気付いたのか足を止め、間合いを測ろうと硬い顎をカチカチと鳴らしながら六本の脚の置き場を探し始める。
―――常に次の手を用意しろ。
教わった言葉が、次々と湧き出てくる。俺は焚き火からさらに数本の薪を取り出すと、放物線を描くように魔物の右側面へと放り投げる。
当てるつもりはない。火の点いた薪は魔物の右側面を点々と照らし始めた。
それでも六脚蜘蛛は動かない。一度で飛びかかれる距離を確実に測っている。
―――相手の動く方向を制限させろ。
残った薪を使って、今度は左側面へと放り投げた。
「さぁ、勝負だ」
魔物の強度は大黒蟻と左程変わらない。だが、市販の刃物では巨大な六脚蜘蛛の体を完全に切断するまでには至れない。つまり、狙うは大黒蟻と同様、関節部の細い部分である。
俺が一歩前に出ると六脚蜘蛛の動きが止まり、下顎を地面に擦る様に、やや前傾姿勢をとる。
「そうだ………かかって来い」
さらに一歩を擦る様に踏み出す。
六脚蜘蛛の後ろ脚が前に出始め、体が沈み始めた。
「こいやぁぁぁぁっ!」
声を上げると同時にもう一歩を踏み出すと、六脚蜘蛛は脚を一気に延ばして正面から飛びかかって来た。
「うおおぉぉぉあ!」
ギリギリまで踏み留まり、俺は六脚蜘蛛が落下に移ろうとした瞬間を狙って側面へと飛び込んだ。
前転して即座に起き上がると、目の前に六脚蜘蛛の側面が視界に入る。
「こなくそぉっ!」
振り上げた長剣を、一気に振り下ろす。数か月の打ち込みで繰り返された先で得た渾身の力を込めた。
長剣は六脚蜘蛛の頭胸部と腹部を繋ぐ関節部に触れ、鈍く低い音と共に切断に成功する。




