①記憶だけの故郷
振り返ると、俺の家がそこにあった。
古びた薄い板を並べただけの壁、見上げれば所々が腐り、汚れた板の屋根。隙間を埋めるように詰められた古い藁。家族三人で住むには狭いが、両親が健在で仕事があるという点において、この集落ではまだ恵まれた方である。
だが、俺にとってその生活は限界だった。
日の出とともに起きて、水の確保。昼まで痩せた畑を一生懸命耕しても、傲慢な商人には作物を捨て値で買われていく。集落には特産となる商品もなく、旅人が道中のついでに寄る様な場所でもない。
毎日同じ事の繰り返し。入る金よりも、出ていく金の方が多い。
そんな弱い世界が嫌いだった。
解決策も見い出せず、生きる為だけに食べ、働き、唯々延命の為に、人生という不可逆な時間をすり減らしていく。
俺にはそれが耐えられなかった。
だから、出ていった。出て行ってやった。
俺が出て行けば、両親の負担も随分と減る事だろう。そして俺は、俺だけの為に自由な時間を使う事が出来る。
互いに損はない。心の中で何度も繰り返し、俺は故郷を後にした。
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「嫌な夢だ」
久々に故郷の夢を見てしまった。しばらく見ていなかっただけに、余計に気が滅入る。取り敢えず両親の顔が出てこなかった分、マシだと考える事にした。
「………っつぅ」
忘れるなと忠告してくるように、左腕の痛みが全身を巡る。籠手を外した前腕部は真っ赤に腫れ上がっており、素人目にも骨に達している事が容易に想像できる。
落下による怪我が腕一本。上を見上げても、二層の明かりが見えない程の高さからの生還と考えれば、随分と世の中の理が優しく見えた。
だが現実は残酷でもある。
隣では、ロロが目を瞑ったまま一向に起きない。一度は目を覚ましたが、痛みに耐えられずに気絶したまま。彼の右脛もまた赤く腫れ上がっており、背嚢から取り出した焚き火用の木材を添え木代わりに当てている。




