⑥大失点
彼女の容赦のない説得が続く。
「今回初めての洞窟、加えて初めての鉱物収集。魔物の数も今より格段と多いのに………リュウさん、あなた採掘の仕方を知っているのかしら? 石と鉄鉱石の区別は? そもそも鶴橋が見当たらないけれど、ここには持って来ているの?」
「うぐっ」
鉱物採集に赴く事だけが頭の中で先行し、鶴橋の存在を完全忘れていた。それらしい言い訳も用意しておらず、早速言葉に詰まる。鶴橋だって安い買い物ではない。残金で購入すれば全ての持ち金を失う事になる。
一方でマーガレッタ嬢は、冒険解説職を雇う利点を次々と挙げていく。
「冒険解説職を雇えば、鶴橋はギルドから無償で貸りられるし、鉱山までの馬車には割引が適用されるわ。使えば有料になるけど、回復薬だって貸し出せる。何よりも、報酬を得ながら的確な助言を貰えるのだから、雇わない方がおかしいのよ」
「まぁ………それだけ聞けば、そうだが」
だが、彼等を雇う事は冒険者として勇気がない者、半人前を高らかに喧伝する事になる。後ろ指を向けられて笑われる事は、俺の矜持が我慢ならない。
決断できない俺の前で、マーガレッタ嬢の表情があからさまに曇っていく。
「あなた、自分だけは死なない、大丈夫って思ってない?」
「いや、流石にそこまでは………」
危険と隣り合わせである以上、最も危険度が低い依頼であっても、怪我は付きものである。依頼内容に関係なく、力量に見合わない魔物と遭遇する事もあれば、道を誤って崖下に転落する事も十分にあり得る。雑魚相手とはいえ、打ち所が悪ければ、死ぬ事だって左程珍しいものではない。
美談や成功体験の裏には、その十倍に匹敵する別れや失敗、大怪我の可能性や経験を含んでいる。冒険者になって初めて大怪我をして学ぶ事が、それである。
「冒険解説職は、依頼者が死にそうになった時のみ、救助者として行動する事が許されているわ。言わば、冒険者保険の上位版ね。確かに報酬は減るし、半端者として笑われるかもしれないけれど………なら、命と天秤にかけても、まだこの職業が必要ないって言えるのかしら?」
何も言えなかった。
元より、経験どころか鶴橋がない時点で詰んでいる。
今の俺には断れる理由が一つもなかった。




