④高揚の起伏
「次っ!」
剣に付いた血を振り払い、迫る大黒蟻に向かって体を起こした。
これだ。これである。
俺が求めていた冒険者の戦いが、目の前にあった。
第一層で大黒蟻だけを作業の様に狩っていた時とは違う。数種類の敵に囲まれ、正面の敵だけでなく、他の者達が相手にしている魔物にも気を回さなければならない。この緊張感と高揚感が、俺の脳内で無限に湧き上がっていた。
「食らうかよ!」
何かの一つ覚えの様に突進する大黒蟻の一撃を避けて側面へと回る。そして大きく長剣を振り上げ、細い関節部を狙い、両断する。
「次はっ!?」
目が大きく開き、俺は乾いた喉を潤す獣の様に、次の獲物を探した。
「いや、今ので最後だったようだ」
シランドが周囲を警戒しながら、二本の短剣を背中の鞘へと納めた。彼の周囲には三体の大黒蟻が倒れており、既に事切れている。
「………ちっ」
昂った高揚感が宙にぶら下がったままとなり、余った欲求不満が思わず舌打ちという形で漏れた。そして俺よりも倒した数の多い彼に目を向けると体の中で棘が生まれ、自分にそのまま刺さるかのような不快さが生まれ始める。
「ダッカ―、どう思う?」
こちらの感情を知る由もないシランドが、相方に声を掛けた。
「テキガ、オオイ」
「俺も同意見だ」
一致する意見に、彼が小さく頷く
「どういう事だ? 第二層に降りれば、魔物が手強くなるのは普通じゃないか?」
来て早々、引き返すなどと言う展開は困る。
「ん? あぁ、そうか。お前達はまだ知らなくて当然か」
髪を後ろへと掻き分けるシランドが、ロロを呼びつけて一度に説明を始めた。
「通常、休憩所付近の大広間に魔物がいる事は珍しいのさ」
「………冒険者達が必ず通るから、でしょうか」
「正解」
飲み込みが早いとシランドがロロに指を向ける。
「つまり、第二層に降りている冒険者が少ない分、魔物との戦闘は苦労するかもしれないという事か」
「そう言う事だ。一匹一匹は何て事はないが、数が多い程集中は削がれていく。気を付けていくべきだろう」
ならば大した問題ではない。黒蝙蝠への対処は問題なく、大黒蟻相手に疲れる事もない。
俺は溜息で、先程の会話を適当に洗い流した。




