③二層での戦い
「さて、そろそろ出発するとしよう」
休憩を挟んで凡そ三十分。シランドは自分の手首を一度見ると立ち上がり、ダッカ―と共に傍に置いた自分達の荷物を担ぎ始めた。
「第二層で、気を付ける奴はいるのか?」
多少の知識はあるが、念の為とこちらから尋ねてみる。
「一層に引き続き、大黒蟻が沸くが、時々黒蝙蝠が飛んでくる事がある」
黒蝙蝠。
子どもが抱きかかえながら投げる遊戯用の球程度の大きさの蝙蝠であり、小さな赤い瞳と長く黒い翼が特徴的な魔物である。小さな口の割には鋭い牙を持ち、小動物等に噛みついて捕食する。
シランドが自分の右手を蝙蝠の口に例え、噛まれる素振りを再現するように左腕を握った。
「薄い服はともかく、奴等の牙は皮の籠手程度で防ぐ事が出来る。だが、本当に気を付けるべきは奴等に視界を塞がれる事だ。顔の前でバタバタと邪魔された所に、大黒蟻の一撃。これで大怪我をする冒険者が後を絶たない」
つまり、倒す優先度としては黒蝙蝠の方が上という事らしい。だが、こちらには弓手がいる。シランドは、ダッカーに優先して黒蝙蝠を撃ち落としてもらい、前衛は大黒蟻に専念。いざという時はロロの魔法で一方を援護するという単純な作戦を立案した。
即席のパーティに複雑な指示は反って混乱を招く。俺もロロも、彼の意見に反対する理由はなかった。
第二層。
休憩所を抜けた最初の大広間。
第一層と比べ、特段変わった様子はない。敢えて言うならば、深く潜っている分、やや空気が冷えている位である。
「来るぞ! 蝙蝠が二体、蟻が三匹だ!」
暗闇の奥に蠢く影の動きから、シランドが即座に相手の数を把握する。残念ながら、そこまでの技量が俺にはない。ここは、彼の言葉を信じるしかなかった。
「ダッカ―!」
「ワカッテイル」
肩幅の広い褐色肌のダッカ―は、彼の背丈に相応しい長弓を構えると弦を引き、一本ずつ木製の矢を放つ。矢は弾かれた弦の勢いを借りて一直線に走り、翼を羽ばたかせながら空中で静止する黒蝙蝠を連続で撃ち落とした。
「す、凄いです」
目を凝らさないと見えない標的を仕留めて地面へと落下させていく腕前に、ロロが魔導杖を抱きながら声を上げる。
「キヲツケロ。マダ、イキテイル」
「大丈夫だ、こっちで仕留める! リュウ!」
「お、おう!」
シランドの号令に、俺も抜刀して走り込む。そして片方の翼を撃ち抜かれて藻掻いている黒蝙蝠の太った胴体に向かって剣を突き立てて止めを刺す。




