②化物の噂
「いや、状況によるな」
シランドが両手を使いながら解説を始めた。
「何もない外ならその考えで良いが、迷宮の様な狭い洞窟で大きすぎる炎を出すと、反って仲間を巻き込む恐れがある。それ以上に、天井が崩れれば全てが終わっちまう。そういう意味では、彼の様な精密な炎が出せる技術は貴重だ」
「アア。イイ、センスダ」
ダッカ―が沸騰し始めた鍋から人数分の白湯を分けながら呟く。
「あ、ありがとうございます」
「ふ、ふぅん。そういうもんかね」
先輩に褒められた事が余程嬉しかったのか、ロロは受け取った椀を見ながら頬を赤くする。俺もここに来るまで、何体も大黒蟻を倒してきたが、そこまで大袈裟に言われた事がない。
実に理不尽である。
自前の干し肉を湯の中に入れてふやかしたものを小刻みに噛み千切り、不気味な程に静かな時間を過ごす。薪が跳ねる音が時折部屋に響き、俺達の影が大きくなって壁に映し出されるが、他には誰もいない。
「二層に化物が出たという話があったが………どうやら本当らしいな」
人気のなさから察したシランドの言葉に、思わず背筋が伸びかけた。
「………でも、退治されたって話だぜ」
無視するのも余計な疑惑や亀裂を生むだけだと適当に返す。当然ながら、自分が当事者の一人である事は口にしない。
「それは俺も聞いたが、情報に絶対はない。他にもまだいるかもしれないと考えている冒険者は少なくない」
その結果が、この状況だと彼が説く。
確かに、二層入口の休憩所は閑散としている。あの戦闘で破壊された扉付きの入口は既に修復を終えているが、よく見れば石床に広がる黒ずんだ部分が何かの染みのようにも見えてくる。
「も、ももも、もしそんな魔獣が出たら、勝てませんよ」
見た事もない魔獣相手に、ロロは既に怯えていた。
「勝つ必要はない。その時は―――」「ニゲル、ダケダ」
手慣れた二人の冒険者が即答する。
少し前の俺ならば、格好がつかないと鼻で笑っていたかもしれないが、経験した身としては、その主張は正しい。あれは、その辺の人間が叶う相手ではない。




