②異常な訓練、異常な男
「よし、それじゃぁいくぞ。打ち合い百回だ」
ショーンも木剣を握る。剣と剣が当たれば一回として数えられるが、回避や籠手での防御は数に含まれない。相手の体に当てられれば十回として稼げるが、逆に俺の体に剣が当てられば、罰として数えた一回が減る。分かりやすいが、下手をうてば、地獄の無限回廊が構築されてしまう。
一気に相手を狙うべきか、それとも堅実に剣を交わしていくか。
単純な様で、体力と頭をかなり使う。
俺は木剣を持ったまま、ショーンとの距離を維持し続ける事に専念する。
初めは、体力のある間に数を稼ごうと躍起になって攻めたが、後半は体力が尽き果て、ついには防御すらままならなくなっていた。
そして、あの手この手で戦い方を変えた頃に、ようやくこの訓練の意味を理解できるようになる。
これは、体力を維持しながら戦い続ける訓練である。
「攻めてこない、か。ふ、随分と慎重になったな」
「へっ、あれだけボコボコに殴られれば、流石に考えるさ」
軽口を叩きながら、僅かでも体力の回復に専念する。
だが、あからさまな姿は見せられない。いつでも攻めるぞと思わせる様に、半歩単位で足を前後左右にずらし、相手の動きに即応するフリを続ける。
「なら、こちらもそろそろ戦い方を変えるとしよう」
ショーンが地面を大きく蹴り出し、攻勢に出た。
――――――――――
「………死ぬ。このまま俺は魔物じゃなく、人間に殺される」
テーブルに突っ伏したまま、俺は呪詛のように怨み辛みを唱えながら、食後に置かれた珈琲を手探りで見付ける。
「まぁ、実際に死因の相手は、半々だからな」
何事もなかったかのように、対面に座るショーンが二杯目に口を付けた。
「………そういう事じゃねぇって」
おかしい。絶対におかしい。
あれだけ打ち合っても、彼には一撃も入れられなかった。
冒険解説職は、冒険者を続けられなくなった半端者ではなかったのか。俺の中の常識は既に崩れている。
「いやぁ、やっぱり先生は強いですね!」
笑ってはいるが、アルゼットも所々に包帯を巻いている。俺との訓練を終えた後、二人はより実戦形式の訓練を狭い中庭で行っていた。
動きの半分も見切れなかったが、二人の動きはまるで事前に打ち合わせていたかのように舞い、しかしどこかで相手の裏をかこうと不規則な動きも混ぜていた。それすら予定調和の様に立ち回っているのだから、結論として二人が異常である事を叫びたい。
それでも結果として、彼女もコテンパンと言う言葉がふさわしい終わり方となった。
やはり、あの男は異常である。




