①訓練という名の
視界がかすむ。耳から入る音に清音と騒音が交互に混じる。首から上と下が別人のような感覚に陥る。
俺は自分が芝生のある庭で大の字になり、呼吸を維持する事に命を懸けていた。
冒険解説職の生徒として、彼の門を潜って、二か月が経過した。
「どうしたどうした? 二か月も経ってるのに、まだ長い休憩が必要か?」
一汗は落ちているが、息を殆ど切らしていないショーンが俺の視界を半分以上占めるように覗きこむ。
流石の銀級を誇るアルゼットも、両膝に手を付いたまま顎から滴り落ちる汗に良いようにされていた。
「い、一体どれだけ、は、走ったと思ってるんだ。そ、そんなに簡単に! な、慣れる訳ないだろうがっ!」
初めは準備運動という名のランニングだった。この家の区画を一周する二、三キロメートルの長さである。
それが一週間後には、二区画分。三週間後には四区画分と広がっていった。
そして今や、街の外周約十キロメートルの距離に達していた。
おかしい。
絶対におかしい。
最早、準備運動の域を越えている。
走り切った自分を褒めてやりたい。それだけの事をここ数日こなしてきた。
だが、目の前の男はそれだけでは不満なのだろう。先程から必死にこちらを挑発し、奮い立たせようとしてくる。
「ひ、久々の師匠の朝ランは………流石にくるものがあるね!」
アルゼットが必死に乾いた笑みを繕おうとしていた。
この人も大概である。
本来ならば、一緒に訓練する必要もないはずだが、適当な依頼を受けるより遥かに修行になるという理由から、毎日ではないものの、この訓練に加わっていた。
勿論、俺は毎日である。
「よし、休憩終わり!」
「ふぁっ!?」
まだ息が無意識に出来るようになっただけである。
「冗談じゃない! あ、あと十分!」
「リュウ。お前は自分や仲間が死ぬ前にも、そう言って待ってもらうのか?」
くそっ。いつもこれだ。
訓練に悲鳴を上げると、すぐに奴は仲間の危機と自分の命を比喩に使ってくる。言っている事は正しいが、正しいからと言って、好意的に受け止められる訳ではない。
「………クソったれが」
「いい言葉だ。是非それを自分に向けて、使ってくれ」
自分で頼んだ以上、逆らう事は出来ない。
俺は震える膝を叩きながら立ち上がり、腰の木剣を構えた。




