⑩人間とそれ以外
「俺は単に、亜人や半亜人が周囲からどう思われているのか。それを肌で知って欲しかっただけだ」
ショーンが壁際で静かに立つティリアに視線を送る。
「この国は、人間と人間以外の者達との間に、軋轢が生じ始めている。昔のようにな」
いや、既に始まって随分と時間が経つとショーンが訂正する。
かつては野蛮な種族として『蛮族』と蔑まれ、討伐や奴隷の対象だった。だが、先の大戦での共闘を経て、共存の道へと進んで数十年。騎士は触れた針が元に戻るかのように、元来た道を戻ろうとしていた。
「あれだろ? 亜人の方が体格や魔力に優れていてずるいって主張」
多くの亜人に生まれつき備わっている身体能力や高い魔力への適正。
人間にはそれがない。才ある者が生まれる確率ならば、亜人とそう変わりない。
故に、職業や社会形成において、人間は亜人と比べて大きく見劣り、同年代であっても遅れを取ってしまう。その結果、次第に人間が使われる側、職や富を失う側に回っていくのではないかという危惧と不安が静かに、そして確実に広がり、漂っていた。
「そうだな、概ね合ってる」
差別や偏見、迫害は、された者にしか理解されない。した者は、時間と共に忘却の彼方へと投げられ、無かった事になる。ショーンは感情論を混ぜず、歴史が語る事実のみを伝えた。
「リュウ。お前がいつか将来、ティリアを解放したとしても、この流れは常に付き纏う。それを忘れるな」
「………お、おう」
やや意表を突かれた形だったが、俺は分かっていると頷いてみせた。
「アルゼットも、巻き込んで悪かったな。こいつらを助けた事、礼を言わせてくれ」
「いえいえ! そんな! 本当に大した事はしていませんよ」
手を小さく左右に振って、彼女は小さく照れる。
「でも、これで私に弟弟子が出来たって事になるんですね!」
「………まぁ、随分と小生意気ではあるがな。アルゼットにも、何かと声を掛けるかもしれん」
「それはもう大歓迎です。いつでも呼んでください!」
力自慢のように、彼女が細い腕を曲げてみせた。
頼もしいと頬を静かに緩ませると、ショーンが立ち上がり、こちらへと視線を戻す。
「そういう訳だ、リュウ。明日の朝から訓練だ………自分で望んで吐いた以上、俺の指示にはしっかりと従ってもらう。いいな?」
「………っ!?」
その意味に、俺の心が跳ね上がる。
そして、勢いよくソファーから立ち上がり、自分なりの精一杯で深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
こうして俺は、周囲から嘲笑されている冒険解説職の生徒となった。




