⑧耐える。ただひたすらに
さて、どうしたものか。
俺は麻袋を抱える右手で腰に帯びた獲物剣の位置を確認する。白級とはいえ、間合いの長ささえ確保できれば負ける事はない。いつもならば、剣の半分も抜いて光らせれば、大半の不良共は逃げていく。
だが、今回に限ってはそれができない。
最も苦手な部類だが、言葉だけで済ませるしかない。
「悪いが、金も荷物も俺のものじゃないんだ。使いを頼まれていてな………無くすと、俺もアンタも大変な目に合う」
「………そいつぁ、俺達の知った事じゃないな」
話が通じない。単純な脅しでは相手の想像力の欠如を埋める事が出来なかった。依頼主がここの領主や二つ名を持つ実力者であれば、その名を免罪符代わりに利用出来たのだろうが、冒険解説職の名では反って馬鹿にされかねない。
髪の毛が絶滅している背丈の長い男が、正面の痩せた男の後ろで抜けた歯を見せながら、下卑た笑みを見せてくる。
「俺達にとっては、お前もそこの半亜人も大して変わらねぇ。俺達にとっては相手から奪えるか、それとも奪われるか、それだけの話よ」
ティリアが俺の服を掴む強さが強くなった。
駄目かもしれない。
一瞬、自分の感情が跳ね上がるのを感じた。拳を握り、空気ごと唾を飲み込む事で、まだ耐えられる範囲の内に収まっているが、これが続くと堰が破ける。
「悪いが………どいてくれ。金なら、幾らか融通してやる」
自分でも驚く程、情けない代案が口から出る。よりにもよって、こんな奴等に自分の金を投げ捨てると思ってもいなかったが、条件を守る為ならばと、自分の矜持と感情を必死に抑え込む。
今日さえ耐えればいい。それさえ過ぎれば、後は後日きっちりと落とし前を付ければ良いと思う事にする。
とにかく耐える。俺は今、それだけを考えればいい。
「けけっ、随分とビビッてるな? それじゃぁお言葉に甘えて、荷物も金も置いていってもらおうか」
損得勘定が通じない奴等だった。
これは参った。
立場が揺るがないと思い込んだのか、痩せた男は刃物を俺の頬に触れるかどうかの距離まで近付かせてくる。背の高い禿男は『早く諦めた方が良い』と、肩を揺らしながら笑っていた。




