⑥視線の意味
「それにしても………相変わらず目立ってるな」
水筒をしまいながら、俺は周囲の視線に眉を潜めていた。
大量の肉と野菜を朝から買い付けている姿が余程珍しいらしい。しかも一人は冒険者、もう一人はメイド服と、関係を想像し辛い組み合わせである。周囲の人間達は特に声も手もかけてこず、止まって凝視する程極端な者もいないが、通り過ぎながら無言の視線というのも、決して気持ちの良いものではない。
「………」
ティリアは下を向いて黙ったまま、何も答えない。
―――何故奴隷になっていたのか。
それが、簡単に聞いて良い話でない事は、流石の俺にも分かる。
だが、気にならない訳がない。
何故あの集落を出なければならなかったのか、どうして奴隷になってしまったのか。そして、何故あの男は、数ある奴隷の内、彼女を選んだのか。
考える程、多くの疑問が生まれては思考の棚へと無作法に並んでいく。
だが、今ある情報と俺の頭では、予想すら難しい。
誰に向けての怒りか、それすら分からない感情が沸々と沸き始める。
俺は首を左右に振った。
「さぁ、あと一カ所だ。さっさと回ってしまおう」
残るは、鉄と銅の引き渡し。ティリアが言うには、既に支払いは終えているとの事で、後は受け取るだけらしい。
俺は腕と体の間で挟むように、二つの大きな麻袋を抱き上げると、未だ冷めぬ朝市の流れへと足を進めていった。
さて、流石の俺も異変を感じ取り始めていた。
まるで開店前の仕入れの様な肉と野菜の大袋。そして、初級冒険者と奴隷のメイドという接点が見え辛い二人。
その違和感は理解できる。
だが、その視線を放つ人々の目が、俺が最初に感じ取っていた『物珍しさ』とは異なると気付いた。
「嫌な目だ」
聞こえない程度に小さく零す。
無言のまま引くような細い眼の数々。
彼らが見せる眼を俺は知っている。俺自身が、その眼で見られた事があった。
それは幼い頃、無断で洞窟に入ったあの日の村人達の眼。その後、事ある毎に向けられた眼である。
―――厄介者、そこに含まれる侮蔑の感情。
その言葉が蘇る。
気が付けば、ティリアが俺の背中の服の端を掴んでいた。




