⑤買い物
一軒目は肉屋。
大通りの中でも一際店の前で人だかりが出来ている。
「鶏を三キロ、ね」
今一度買い物のメモを確認し、後ろにいるティリアの顔を振り返った。
「どちらが買うのかとか、指示はあったか?」
「………いえ、特にそこまでは」
やはり、何処か余所余所しい。
ティリアと村で別れたのが、ほぼ二年前。元々積極的な性格ではなかったが、ここまで消極的でもなかった。過去の記憶の分、補正がかかってしまっているかもしれないが、彼女の身に何かが起きて、そうなったのかは分からないし、聞く訳にもいかない。
「とにかく、買い物を済ませてしまおう」
あれこれ考えても仕方がない。俺は先頭に立って群衆の中へと体を入れ込んだ。
「ほら、買えたぞ」
歴戦の主婦に揉まれながらも、体を潜り込ませて戦う事数分。ようやく店主の前へと辿り着いた先の勝利であった。
俺は処理が済んだ六羽分の鶏が入った大きい麻袋を両手で抱え、大通りへと戻る。通り過ぎ様に、多くの視線がこちらに向いていたが、それは止むを得ないと無視を決め込んだ。
「………私が持ちます」
手ぶらの幼馴染が、周囲の視線にやや怯えつつも、気まずそうに声をかけてくる。
「いや、これ位は持たせてくれ。もう何年も相手をしてやれなかったからな………さて、次は野菜だったな」
「………はい」
元々、自分なりに見栄を張ろうと全ての荷物を持つつもりだったが、重さが重さだけに、最終的にはある程度持ってもらう必要になるだろう。だが、それまでは自分で荷物を持つ事にする。今の俺に出来る事は、そう多くない。
「二件目も終了………っと」
思わず深い息が漏れる。
朝市の中、盛況な青果店からの脱出に成功した俺は、店の外壁で鶏肉と一緒に待っていたティリアと合流を果たす。
「ちょ、ちょっと………降ろさせてくれ。うひぃ」
大きな麻袋に詰められた野菜一式を一旦草の上に降ろすと、俺は痺れていた掌を何度も振り、痛みを散らす。そして、背嚢から水筒を取り出すと、水分をこれでもかと補給する。
「ぷふぅ!」
血管に冷たい水が染み込むように、体が上から下へと一気に冷えていく。
「ティリアも、何か飲むか?」
同じ水筒は無理でも、露店なり商店なりで、飲み物を買える程度の蓄えはある。
「いえ………大丈夫です」
「そう、か」
少しでも話題が増えればと思っていただけに、残念である。




