④戻れない距離
村の頃からあると言われている中央の大通り。年季が入り、亀裂が所々見える石畳が敷かれたやや勾配のある道を進みながら、俺達は左右に開かれた店舗や露天商から朝一番の大声を浴びせかけられる。
老若男女、様々な買い物客が、それぞれ耳障りの良い声に惹かれながら商品の前へと吸い込まれていく中、俺とティリアは混雑する人通りの中を無言で歩いていた。
どんな話をすればいいか、分からない。
俺はティリアとは反対側で、静かに拳を強く握りしめた。
子どもの頃は、こんな悩みなどなかった。彼女に会うまでに見てきた風景、家での面白い話、思いついた事を口にするだけで、ティリアは良く笑って返してくれていた。
「買う量が多いが、今日が良い天気で良かったな」
「………はい」
会話が終わる。
俺は馬鹿か。そうじゃないだろうと、自分で自分の額を小突く。
「い、いつもこんなに買いに行くのか?」
「………いつもは、業者の方が家まで届けにきてくれます。それでも買い物が必要な時には、御主人様かコルティ様が買いに出掛けられます」
御主人様。
自分の幼馴染が主人と呼ぶ姿に、どうしても感情が揺さぶられる。隣にいるはずが、どこか遠い国にいるかのような距離を生ませていた。
「なぁ」
俺は思ったことを口にする。
「敬語を使わなくていいんだぜ? 昔通りで構わねぇよ」
同じ故郷の出身で、幼馴染。なのに、この関係は俺にとって違和感の塊でしかなかった。
「………ごめんなさい」
だが、彼女は首を縦に振れなかった。
「今の私は、奴隷の使用人です。使用人が他の家の者と笑っていれば、何を思われるか分かりません」
「くだらねぇ」
心底そう思った。
そこまで、周囲に気を遣わなければいけないのか。
そこまで、一人の人間の笑顔と自由が奪われなければならないのか。
何もかもが不愉快になりそうだった。
「いつか、俺がお前を自由にさせてやる」
「………昔から変わってないね」
顔を向けずに呟く一言。それが彼女の精一杯だった。
その言葉に対して、満足に返せるだけの金も力もない俺は、静かに耳に入れるしかなかった。兎に角、この試験を乗り切る。それだけに集中しようと、気を張り直す。




