②幼馴染からの敬語
「どうした? 拍子抜けしたか? てっきり無理難題を出されると?」
「まぁ………な。正直驚いている」
視線をずらしながら短く答える俺に、ショーンが見透かしたかのように頬を緩ませてくる。
「だが、簡単だと思う依頼程、冒険者は気を引き締めた方がいい。昔から言うだろう? 強い敵には『逃げる』という選択肢を取りやすいが、その逆は難しい。冒険者の死亡率で最も高いのは、高い難易度よりも、実力より低い難易度の時なのさ」
聞いた事はある。
何も冒険者に限った話ではないが、油断する程死にやすい。
「だからって、別に街の買い物で死ぬ事はないだろう」
「滅多にないというだけだ。どの街にでも、事件は少なからずある………ん? あぁ、勘違いしないでくれ、この件については、俺が何か仕組んだという事はない」
どうだか。
今までの言動から、事前にその辺のゴロツキ達に声をかけていたとしても、それ程驚かない自分がいた。
だが、それを口にしても証明する方法はない。今は目の前の男の機嫌を損ねないようにするだけである。
「買い物のリストはティリアに渡してあるから、後で確認してくれ」
「………分かった」
道中何も仕組んでいない。ショーンは、もう一度同じ言葉を使い、あくまでもただの買い物と護衛だけだと強調した。
どうだか。何度も言うと、反って怪しく聞こえるものである。
話を終えると、隣の部屋から買い物籠を前に下げたメイド姿の幼馴染が姿を現した。
「………ティリア」
懐かしい名を呼ぶ俺に、彼女は一度視線を向けてきたが、すぐに体ごとショーンへと向け直していた。
「ティリア。気を付けて行ってきなさい」
「はい。御主人様」
小さく丁寧に一礼、さらには先輩でもあるコルティにも会釈すると、彼女は入口側に立っていたこちらに向かって歩き出した。
そして、俺の目の前で止まる。
「………よろしくお願いします」
「あ、あぁ」
同郷だったはずだが、初めて使われた言葉だった。
一礼と敬語で返される違和感を覚えながら、俺は頷く以上の行動に移れなかった。




