⑫強くなりたい
ショーンが続ける。
「俺は自分のやりたい事になるべく時間を割きたいし、何より俺の事を必要としてくれる人達の為に時間をかけてやりたい。そんな奴等に使うよりも、その方が精神的にも良いはずだし、第一、楽でいい」
『気にしない』ではなく、『相手にしない』。そうあるべきだと彼が説く。
それは、今の俺にはない境地。だが、感情的になりやすいと自覚している俺にとって、そこが目指すべき場所だと、何故だが抵抗なく自然に納得できた。
気が付けば俺は、無言のまま目の前の男に向かって深く頭を下げていた。
「どういうつもりだ?」
先程までの穏やかな表情を消し去り、ショーンが尋ねる。
「俺にも先生と呼ばせてくれ!」
自分が強くなる為の最短にして最効率の道。それが俺の目の前にあった。
風の音すら入らない程、沈黙だけがこの場を支配する。
「…………悪いが断る。俺は忙しいんだ」
彼が歩き始めた。
「ま、待ってくれ!」
歩く先に回り込み、もう一度頭を下げる。
いつもなら感情が先立ってもおかしくなかったが、その余裕すらなくひたすら頭を下げ続けていた。
「頼む! い、いやっ! お………お願いします」
相手を説得できる言葉などない。見つからない。俺の頭では思いつく事すらできなない。
俺は短い単語を口にする事しか出来なかった。
もっと学を身に付けていれば、相手を納得させられるような気の利く表現も見出だせたのだろうが、今となっては後の祭りである。
ショーンの足が止まる。だが、彼の顔は決してそれを許容したものではない。
むしろ逆であった。
「この前は、俺に奴隷について説教した上に、自分が買い取るなどと大言壮語を吐いたな。そして今度は、俺の強さを知った途端に手のひらを返して、弟子にしてくれ、か? 随分と良い身分だな、おい。お前は王か神か何かか?」
彼の口から吐かれる事実という雑言。
「お願いだ。俺は………強くなりたいんだ」
三度目。
「………お前はまだ冒険者になって一年だ。別に俺自身が教えなくても、研鑽をきちんと積んでいけば、いずれ相応の等級に辿り着く事が出来る。焦る必要はないだろう」
優しい声だが、溜息交じりの言葉が紡がれる。




