⑪隠す強さ
「それじゃぁ、先生! またよろしくお願いします!」
「あぁ。今日は早く寝ろよ?」
怪我の治療を終えるなり、アルゼットを慰労する飲み会が、落ちた本人の意思で強制的に主宰された。怒涛の飲み食い二時間の内、半分を模擬戦の振り返り、残りを彼女自身による先生の自慢話で埋め尽くし、彼女の酔いが回った所でお開きとなった。
外で別れ、ふらつきながら小さくなっていく彼女の背中を見送りながら、俺は隣に立つほろ酔い姿の冒険解説職を見上げる。
未だに信じられないが、見たものは全て現実である。
冒険解説職として嘲笑の対象となっていた彼は、あらゆる武器を使いこなし、銀級の中堅冒険者が攻撃を当てられないばかりか、一撃で倒せる実力を持っていた。
白級の目から見ても、彼に二つ名があってもおかしくない。
だが、彼程の実力者が、ギルド内で一切話題になっていない。それが不思議で仕方がなかった。
冒険者になって一年と、日の浅い俺の知識にない事は多々あるが、他の冒険者が彼の事を気にかけてもいない。それ所か、揶揄する対象とされていた。
有り得ない。何故彼が、それを受け入れているのか理解できなかった。
「………なぁ」
メイドのコルティは飲み会に参加せずに、早々と帰宅してしまったが、俺は念の為と周囲を確認してからショーンに声を掛ける。
「んー?」
火照った頬を手で扇ぐ彼が、視線を向けて来る。
「あれだけ強いのに、周囲に馬鹿にされて………悔しくないのか?」
率直な疑問をぶつけた。
俺だったら耐えられない。自分の実力をこれでもかと見せつけ、口だけの奴等を黙らせている。
「そりゃぁまぁ、悔しくないと言えば嘘になるがな」
ポケットに手を入れ、ショーンは冷えた夜空を見上げた。青や白、赤い星々が散りばめられているが、大小二つの月の明かりが、我先にと主張している。
一呼吸置いた彼が、言葉を続ける。
「そんな奴等を相手にしても仕方ない、相手をしても疲れるだけだって思う事にしている。どうせ目の前で実力を証明したって、心の底から謝るつもりも、改心するつもりもないだろうし、そもそもそういう奴等は、自分の人生が詰む直前まで治らんだろうさ」
「………そうかもしれねぇけどさ」
真理に近い事実であった。




