③ギルドの朝は弱肉強食
「こうなったら、覚悟を決めろよ………リュウ」
自分の名前を声にしながら、冒険者ギルドの前で足を止める。そして影で見えない奥を睨むと、一呼吸置いて両開きの小さな扉を押し開けた。
ややきつめに止められていたのか、蝶番の擦り声が耳に丁度良く残る。
室内では、既に街に逗留していた同業者で溢れていた。
冒険者の一日は、掲示板に貼られた依頼の取り合いから始まる。素材回収等、ギルドから出されている募集無制限の依頼もあるが、稼ぎが良い依頼は基本的に一品扱いのものばかりである。依頼ごとに難易度も示されているが、このアリアスの街では比較的低級冒険者の需要と供給が一致していない。
「まるで、砂糖に群がる蟻だな」
冒険者同士の面倒事は御免である。
だが、俺は小さくそれを口にしていた。あれは冒険者のあるべき姿ではない、金欲しさに集まる卑しい人間の行いである。だから、俺はやらない。
ポケットに手を入れたまま掲示板の横を通り過ぎる。
だが、それが強がりである事は自分自身でも分かっていた。冒険者を目指すと大口を叩いて勝手に村を飛び出して、間もなく一年。固定のパーティを持たず、入らず、一人で薬草等の採集や簡単な害獣討伐を済ませて日銭を稼いでいる。
それが俺である。
「だが、そんな生活も今日で終わりだ」
なけなしの金で薄鉄の胸当てを買い、研いでもらったばかりの青銅の長剣も腰から下げている。腰のベルトに差し込んであるポシェットには、数日分の食費に相当する回復薬を数本補充した。流石にどれも新品という訳にはいかなかったが、初級冒険者としては随分な羽振りといえる事は確かだ。
俺は一つの覚悟をもって壁の端に置かれた椅子に腰を勢いよく落とし、個別の依頼を取り合う同業者達がいなくなるまで、それを遠目で見続けた。
時間にして、凡そ数十分待ち続ける。
「そろそろ、言い頃合いかな?」
掲示板に殆ど残らなくなった依頼書と同じ程度にまで冒険者が減った所で、ようやく立ち上がり、俺も掲示板へと向かった。




