④指名
「おぉ! それは凄い、頑張れよ!」
自分事のようにショーンが頬を緩め、殆ど中が空になっているジョッキを持ち上げた。
「金半級への昇級試験ともなれば、それは内容も厳しいんじゃないですか?」
自分にとってはまだ先の話だが、後学の為に聞いておこうと声を挟んでみる。
だが、それを待っていましたかのように、彼女の表情がみるみる真剣になっていく。
「試験内容は模擬戦。つきましては、先生を対戦者として指名させて頂きました」
「「ぶっふぅぅぅぅっ!」」
俺とショーンが、同時に口を付けていたジョッキから酒を噴き出した。そして、お互いに顔に掛け合い、むせ合い、咳き込んだ。
昇級試験に模擬戦がある事は俺でも知っている。だが、試験監督となる相手は二等級以上の冒険者に相当する実力者と定められている。
「冒険解説職は、昇級試験の手伝いも仕事としてありましたね」
「お前なぁ、よりによって俺を指名するなよ………っていうか、よくギルドが許可したなぁ」
彼女が先生と呼ぶ以上、近しい者は不正行為の疑惑が生じやすい。ショーンの発言は、もっともであった。
だがアルゼットは、『先生』はあくまで公的な関係ではない為、何も問題なかったと説明する。
「明朝には、正式な依頼が届くはずです」
「明日の朝って、試験当日じゃねぇか。銀級相手に、即興で準備しろとか………くそ、後でギルドに文句言ってやる」
ショーンがテーブルにジョッキを置き、ゆっくりと立ち上がった。
「まぁ、仕事なら仕方がない。悪いが試験監督として指名された以上、手を抜くつもりは毛頭ない。お前の全力で挑んでこい」
「勿論です! ようやく、この日が来ました。これまで学んできた全てを出させて頂きます」
そう言い、二人は強めの握手を交わした。
堂々と去っていくアルゼットの背中を見届けた俺は、改めて目の前のショーンに顔を向け直す。
「そういう訳だ。悪いが、明日の依頼が埋まってしまったからな………お前さんの鉱物採掘には付き合ってやれなくなった」
「あぁ………分かった」
止むを得ない。ここ最近は順調で、採掘の流れも慣れてきた。明日一人で掘りに行くにしても、大きな問題はないだろう。
だがそれ以上に、俺の頭の中では、情報の修正が求められていた。




