②底辺の冒険者
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今日は朝から気に食わない事ばかりだった。
未払いを心配したのか、起きて早々宿代を請求されて軽い財布が更に軽くなり、唯でさえ美味くもない朝食を、知らない小太りな中年男と相席となり、彼の独り言が食事の味を全て奪った。あまつさえ、部屋での支度を終える間際に、服のほつれがベッドのはみ出た木材に引っかかり、指が通る穴を開ける羽目になった。
「あ~ぁ、マジでやってられねぇ」
見るもの全てが感情を逆撫でするようだった。朝市の客寄せの大声や手を叩く雑音ですら、神経をやすりで削ってくるかのようである。我ながら短気とも言えなくないが、あと数日もしない内に路銀が底をつくと思えば、多少なりとも同情はして欲しいものである。
―――冒険者。
魔物の討伐、商隊の護衛、剣や魔法で困難を切り拓き、命を賭けるに値する報酬と名誉を得る。この世で最も自由な職業である。
その頂点に辿り着いた者は、英雄や勇者と呼ばれ、物語として未来永劫子ども達への語り部として君臨する。そして、その話を聞いた子どもならば、誰もが一度は憧れ、棒を剣に、鍋蓋を盾にして、冒険者ごっこに明け暮れる。
「クソ………もう採集依頼じゃ埒が明かねぇ」
しかし、冒険者の現実は残酷である。
次の国王を目指してもなれないように、目線を下げて一生遊べる金持ちを目指しても、簡単に到達できないように、冒険者としての英雄もまた、無数の名もなき冒険者達の踏み台の上に君臨する。
俺のようにパーティも組めず、毎日を森の中で薬草やら香辛料やらを回収して日銭を稼ぐ人間もいる。魔物との遭遇も殆どなく、必要な量を背嚢一杯に回収して報告するだけの単純な依頼をこなしていく毎日である。
子どもの小遣い稼ぎとしては十分な報酬だが、武具を買い揃え、維持し、万が一の薬を用意し、持ち家もなく宿での生活を強いられる俺達の様な冒険者にとっては、毎日の食事と細やかな酒代を削ってようやく生きていける程度でしかないのだ。




