⑫絶望の現実、理想の目標
だが、俺は自分で考えられるだけの金額を提示しようと、ショーンに向かって左右の手を広げてみせた。
「これだけ出す」
「………金貨十枚か」
指の数から、彼がそう呟く。
だが、俺は負けるつもりはない。
「違う。大金貨でだ」
貨幣として最大の価値がある名を口にすると、流石のショーンも眉を動かした。
「………馬鹿か。豪邸に新品の家具をつけても、まだ釣りが飛んでくる額だぞ。もっと現実的な数字をだな―――」「俺が冒険者の頂点になれば、そんな端した金、すぐに払ってやる!」
拳を見せつける。
もう後には退けない。それだけの事を吐いた。
「確かにすぐは無理だ。今の俺には力も学もねぇ………だが必ず払ってやる。それまで、あいつを大事に扱っておけ!」
「………分かった。大金貨十枚だな」
あっさりとショーンが提示額を飲み込んだ。
彼は腰のポシェットから回復薬を取り出すと、こちらに投げてきた。
「殴って悪かったな。そいつをさっさと使って、しっかりと稼いで来い。何しろ大金貨だ………早くしないと、お前か彼女か、どちらかが年老いて死んでしまうかもしれないぞ?」
肩を縦に揺らしながらショーンは立ち上がり、奥の部屋へと入ってしまった。
閉まる僅かな間にだけ見えた隙間の奥から、懐かしい瞳が潤んでいるのが見える。
俺は一人、部屋に残された。
「………やるしかねぇ」
今はまだあいつの所に行けない。俺は回復薬を一気飲みすると、それを床へと投げ捨てる。そして、部屋の端に置かれていた自分の背嚢を掴み、音を立てて家を飛び出した。
「大金貨十枚!」
金貨にして約一万枚。銀貨ならば百万枚である。
だがそれが、俺自身にとって過去の清算に繋がり、加えて幼馴染に未来を渡す事が出来る。絶望的な金額よりも、明確な目標が出来た興奮の方が遥かに勝っていた。
「やってやる! やってやるぞ!」
その足で、冒険者ギルドへと向かって行く。




