⑪幼馴染の価値
「いくらだ」
「………何?」
予想だにしなかった単語に、ショーンが振り向く。
「あんたは、いくらでティリアを買ったんだって聞いてるんだ!」
ここまで吐いた以上、後には退けない。
感情的な自分に嫌気がさす事も少なくないが、ここでは流れに乗るしかない。
「まさか俺から買い取る気か? さっきまで奴隷買いを散々に否定した奴がか?」
「買い取るんじゃねぇ。俺があいつを解放してやるんだ」
屁理屈なのは分かっている。
「………あいつは半亜人だぞ」
人間でも亜人でもない半端者。そんな彼女、彼等を人々は半亜人と呼ぶ。
「そんなの百も承知だ。俺はあいつと同じ故郷、幼馴染なんだぜ?」
人間の両親から生まれた突然変異。忌み子。故に集落の中では疫病神扱いされ、ついに両親からも見放されていた事を、俺は小さい頃から知っている。
奴にとっては、動揺を誘う一言だったのだろうが、同郷の俺には全くと言っていい程に通用しない。
「………いいだろう」
ショーンが倒れていた椅子を立て戻すとそのまま腰かけ、足を組む。
「お前の言い値で売ってやる」
「なっ」
その返しは想像していなかった。
彼がしてやったりと頬を緩ませる。
「そんなに大事ならば、お前があの娘の価値を決めろ。もし、銅貨一枚だというのならば、俺は一切の文句も出さず、首を縦に振ってやる」
だが、と彼の表情が強張っていく。
「奴隷を買う事を悪だと、その口で堂々と吐いたんだ。ならば良く考えろ。お前がこれから払う金は、単なる奴隷として価値じゃない。お前にとって同郷の幼馴染であり、彼女が解放され、病死か天寿を全うするか………彼女が死ぬまでの時間を自由にさせるだけの金だ………それを言ってみろ」
何という提案か。頬を伝わる汗に合わせて、顎が思わず引いていく。
正直、奴隷の相場など知る由もない。金貨ですら握った事もない。彼女の人生の価値など、複雑な計算が出来るだけの学もない。




