⑧感情と法
彼の言葉に、俺の感情は一気に沸点を超えた。
立ち上がり、テーブルを挟んだまま前のめりになってショーンの胸倉を掴み上げると、俺は彼を無理矢理立たせていた。
「てめぇ! 奴隷を買うなんて、それでも人間かあぁぁっ!?」
互いの椅子が倒れ、テーブルの上にあった空のコップも転がり、床に落ちて割れる。
少しでも認めようとしていた男が、一気に親の仇のように見えてくる。
「………奴隷を買う事は、違法ではない」
「あぁ! んなぁこたぁ知ってらぁ!」
かつてこの国では、亜人を奴隷として扱っていた時代があった。しかし、数十年前に亜人との共存を呼び掛けた当時の王が、奴隷売買を禁止する。
そして大戦を経てから数十年。王国が豊かになるにつれ、貧富の差が拡大した事で罪を犯す者や借金の返済が出来なくなる国民が増加した。これを重く見た王国は、既に問題となっていた労働者不足の解決も兼ねて、人間、亜人に関わらず、犯罪者または借金の為に売られた人間を対象とした奴隷制度を復活させたのである。
「人を金で買うなんて、間違ってるだろうって言ってるんだよ!」
この街に奴隷を売っている場所がある事は知っていた。いつか何かの拍子でその区画を通った事があるが、鎖につながれた者達は全員が全員、死んだ目と瘦せこけた体のまま微動だにしていなかった。どう見ても、犯罪とは無縁のような者達もいた。
そんな奴隷を買う奴等も、犯罪者と同類である。
「お前のその感情を否定するつもりもない。言っている事も理解できる」
胸倉を掴まれていても、ショーンはいつになく冷静だった。
冷静に、こちらを凝視してくる。
「もう一度聞くが、俺は何か罪を犯したのか?」
何も犯してはいない。
だが、感情の先端はそこではない。
「そう言う問題じゃねぇ!」
「ならば、どういう問題だ? 具体的に教えてくれ。お前は何に対して怒っている?」
「………くっ」
言葉としてはすぐに訳せない自分がいた。
「あいつを………ティリアを奴隷から解放しろ」
「何故だ? お前の幼馴染だからか? 悪いが、俺が解放しなければならない理由がない」
「………理由なんかいらねぇ! 澄ました顔してねぇで、さっさとやれって言ってるんだ!」
胸倉を掴む握力が強まっていく。最悪、剣を抜いてでも解放させる。その決意が俺の中で徐々に固まっていった。




