⑤無名な犠牲の上に
「よく生きて帰れた」
冒険解説職を雇っていなかったら、間違いなく死んでいた。
「いや、待てよ………それじゃぁ何だ」
そこである一つの事実が浮かび、命の恩人に指を向ける。
「あんたが、その魔獣を倒したのか?」
周囲に他の冒険者はいなかった。もしあれを一人で倒せるのであれば、彼は相当な手練れという事になる。
だがショーンは、自分で自分を指さしてから目を大きくさせると、すぐに手の形を変えて左右に振った。
「俺が? まさかまさか! 知ってるだろう? 俺は革鎧に片手剣なんだぞ? あんな奴と戦ったら、一分も保たないさ」
正直な話と、彼が肩をすくめる。
あの後、ショーンは二層の奥から現れた冒険者によって助けられたという。その冒険者は、冒険者の中でも有名な十人の英雄『十傑』の弟子だったらしい。
「本人は巌窟王の弟子だって言ってたよ。いやぁ、もう凄い魔法で、ズガーンと一発。それで魔獣が膝をついたのさ」
身振り手振りで、見てきた事を大袈裟に表現するショーン。その隙を見た彼が、俺を担いで一気に一層まで避難したのだという。
だが残念ながら、と声を落ち着かせていく。
「俺が戻った時には、その冒険者は魔獣と相打ちだった」
「………その人が、召喚したって可能性は?」
「分からん。彼が自分の失敗の尻ぬぐいをしようとしたのか、それとも純粋に助けに来たのか………判断できるものは何も残っていなかった」
だが、遺体から回収できた冒険者証から身分に偽りはなかった。ショーンは、それがお互いに助かった結末だと言い終える。
「ギルドには俺から報告してあるし、現場の調査も既に終わっている。お前さんがギルドに報告する必要はないから、心配しないでくれ」
「あ、あぁ」
そこまでは考えが及んでいなかったが、取り敢えず返事だけは返しておいた。
兎にも角にも、運が良かった。それだけは確かである。




