③最低限の礼儀
これは夢か幻術の類か。だが、俺の本能が警告している。
―――間違えると、俺の命はない。
「し………ショーン………さん」
人生を賭けるように言い直すと同時に、空気の淀みが嘘のように消えてなくなった。
合っていた。思わず襟首に指を入れて空気を入れ刈る。
「コルティ」
「はい、御主人様」
ショーンの言葉に、コルティと呼ばれた亜人のメイドが浅く一礼し、俺を一階へと案内する。そして降りた先にあるテーブル、主人の前にある椅子を軽く引くと、そこに座るようにと手を伸ばした。
「食欲はあるか? 用意してやるから、そのまま待ってな」
「あ………あぁ。だが金はない、ぞ」
昨日の準備云々で、俺の金は底を尽いている。
「大丈夫だ。昨日の依頼達成料をギルドから預かっている」
ショーンはポケットの中から、一掴み分の銅と銀貨をテーブルの上に開いてみせた。
いまいち理解が及んでいない。俺は魔獣に襲われて気を失っていたはずである。
ショーンが椅子に背中を預ける。
「気絶したお前さんをギルドまで運んだのは俺だが、依頼内容は鉱物の採掘だ。既にお前さんは採掘を終えていたから、背嚢に入っていた鉱物を持って帰ったと………まぁ、今回はそう見なされたのさ。良かったな、俺を雇っておいて………そうじゃなきゃ今頃、化物の腹の中か、床に捨てられた排せつ物だ」
依頼の達成料から、冒険解説職の依頼料を抜いた額。合わせて大銅貨五枚、銀貨二枚の収入となった。食事抜きなら安宿で二泊、食事付きなら一泊にお釣りが来る。薬草収集では、決して一回で辿り着けない額である。
「そ、そうか」
自分の収入ならと、俺はテーブルの上に積まれた金銭を手元へと運び、胸元から小銭入れ用の巾着を取り出して入れる。
「治療代は冒険解説職を雇った特典で無料。俺の家で朝食を食べられるのは俺の善意だ。感謝してくれ」
「………べ、別に、頼んで—――ひっ!」
側面から再び、俺の本能が強烈な悲鳴を上げる。
横を向いて見上げると、笑顔のままの猫メイドが、両手に料理をもって立っていた。
そして待っていた。




