①十年前の屈辱
冒険者を初めて目指そうと決めたあの日の事を、俺は今でも明確に覚えている。
―――あの日。
まだ十にも満たなかった俺達は、村の大人達の忠告を無視して外れにある洞窟へと足を運んだ。あの時の俺は、家にあった古びた剣を持ち出し、大木や大地でさえ斬れる、まるで絵本にある英雄のような強さを得たと思い込んでいた。
だが、それも所詮は子どもの浅はかな夢幻。
盾代わりにと握っていた鍋蓋が、大黒蟻の一撃を受けてバラバラに粉砕され、小さな腕で振るった剣が岩壁に当たった衝撃から手を離れた時、ようやく我に返ったのである。
「あぁ、俺は何て―――」
現実に引き戻され、無力な自分という正しい評価が脳裏を走り抜けた。
一緒に冒険ごっこに明け暮れていた親友は、地面を赤く染めながら伏して動いていない。親友の妹、幼馴染の一人は、大黒蟻に囲まれながら必死に泣き叫んでいる。
「助け………ないとっ」
父親に二日に一度は殴られ、泣いてばかりの幼馴染。俺や倒れている彼女の兄がいつも前に立ち、代わりに拳を受けてやらないと、あいつの笑顔を見る事が出来ない。
だが、体は全く動かない。
やけに地面も低く、天井が高い。
「あれ、何で?」
俺は地面に寝ているのだろうか。
大黒蟻の一匹が、俺の視界を塞いでいく。
―――数分後。
時間の感覚を失っていた俺の視界に、一人の冒険者が立っていた。
彼は安い革の軽鎧を纏い、質素な片手剣を握り、大黒蟻を次々と屠っている。腰に帯びた黒い剣が印象的だったが、彼は握っている剣のみで次々と勝利を収めていく。
この日、俺は一人の親友を失い、一人の幼馴染を守れず、そして一人の冒険者に救われた。
もっと強くなりたい。
俺が冒険者の道を進むきっかけになった屈辱の日である。




