②新人の朝
痛みに耐えながらベッドか起き上がった俺は、部屋の隅に置かれた自分の装備を慣れた手つきで身に付けると、最後に手を伸ばした背嚢の中が空になっている事に気付いた。
「………ま、しょうがねぇか」
採掘した鉱石を納入できず、途中で気を失った。そして、冒険解説職のショーンが要救助と判断して、俺をここまで運んできたのだろう。採掘した鉱物を失った事は金銭的に厳しいが、死んでもおかしくない状況から生還できただけでもマシだと思う事で、感情に諦めを付けさせる。
最悪、薬草の収集で食事代だけでも確保し、数日路地裏で寝れば、それなりに蓄えられる。そう割り切る事にした。
扉を押すが、鍵はかかっておらず、擦れる金属音を短く立てて簡単に開いてしまった。
「あら、お目覚めですか?」
一歩を踏み出すと、そこには白と黒のメイド服を纏った女性が立っていた。
だが、彼女が人間ではない事にすぐ気づく。
小麦色の毛並みを全身にもつ猫型の獣人、猫亜人と呼ばれる種である。人ならざる者達、最も広い意味をもつ亜人の中でも力と速度に優れ、回復や支援魔法に長けている一族と言われている。
「あ、あぁ」
「それは良かったです」
彼女の安堵の表情から敵意がないと見えるが、素直に笑顔で対応する必要もない。
「なぁ、ここは一体?」
可能な限り情報を得る必要がある。
「………まぁ、そんなに構えるなって。ここは俺の家なんだからさ」
声は下から聞こえて来た。
俺は手すりから下を見降ろすと、椅子に座った男が、コップを軽く持ち上げながら見上げ、『よぉ』と挨拶を飛ばしてくる。
「しょ、ショーン?」
「さん、を付けろよ、新人? 悪いがお前は、もう俺の依頼主じゃない。年上には相応の敬意を払っておいた方が、後々得になるぞ」
年上と言っても、俺達にそれ程差は無いだろうと思いつつも、知りたかった情報がいくつも手に入り、一気に膨れ上がった安心感と共に、沈んでいた感情が反動のように沸々と沸き起こり始める。
「新人って! 俺はもう一年以上も冒険―――ひっ!」
突如、強力な威圧が側面から襲い掛かってきた。
その正体を知ろうと振り向くと、そこでは笑顔のままの猫メイドが立っている。
但し、彼女の周囲の空気が蜃気楼の如く淀んでいた。




