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Lost13 無名の青年が無名で終わる物語  作者: JHST
第三章 初級冒険者、二層へ行く
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⑨背中は何も語らない

 俺は震える手を鞘に叩き付けて正気に戻し、一気に長剣を引き抜くや、全速力で突き進む。

 魔獣の赤い眼はこちらを見降ろしていたが、直立したまま一向に動こうとしない。

 

―――舐めやがって。

 どんな生物が相手でも、全力で振り下ろされる鉄の長剣(ロングソード)で切りつけられれば、ただでは済まない。

「食らいやが—――っ!」

 その先の声。それだけでなく、全ての音が瞬時に奪われた。

 剣を振り上げたまでは覚えている。だが、横から受けた強い衝撃は一瞬で視界を歪ませ、次に移った光景は視界の半分以上を覆う岩の床だった。

「………ぐっ」

 全身が動かない。

 痛みこそないが、戻りかけてきた音が体内で反響し、方向感覚すら掴めない。


―――俺は呼吸しているのだろうか。

 それすら分からない。


―――俺は今、何処を向いているのか。

 それも分からない。自分がどんな姿勢でいるのかすら分からない。


 ぼやけ始める視界に合わせるように、意識や呼吸が深みに落ちていく。

 そんな視界に、一人の男の背中が映っていた。

「………黒い剣」

 それは、あの時と同じ光景だった。


 そして全てが暗転する。

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