⑦異変
「大丈夫か!?」
「これは………酷いな」
俺が男を抱きかかえ、ショーンが容態を確認する。だが、仔細を見るまでもなく、男の重傷さは目に分かって酷いものであった。
左腕の損失に加え、頭部側面からの出血。俺の腕から下半身にかけて、既に大量の血液が纏わりついている。
「た、助けてくれ………皆、皆死んじまった」
男の目に光は殆ど残されておらず、うなされているかのように同じ言葉を繰り返していた。
「くっ!」
俺は腰のポシェットから支給された回復薬を取り出す。
だが、それをショーンが手を伸ばして静止させてきた。
「何するんだっ! あれかっ!? 支給品を他の連中に使うなって事か!?」
「………いや、彼はもう助からない。無駄遣いは止めるんだ」
呼吸が浅く、ゆっくりと変わっていく中年冒険者の男。良く見れば、馬車に乗っていた者の一人だ。
「まだ分からねぇだろ!」
制止を振り切り、俺は支給されたポーションの蓋を口で開け、男の開いたままの口に流し込む。
だが、既に男に飲み込む力はなく、むせる力もなく、口の端から液体が漏れ出ていく。
「くそっ! 頼む! 飲んでくれ!」
本来であれば、傷口が仄かに光を放ちながら傷が癒えていくはずだが、男の体には何も変化が起きない。
数秒後、男の目から光が完全に潰えた。
ショーンが彼の首に下がっていた冒険者証を手に乗せる。
「青銅級か。確か、もうすぐ鉄級の昇級試験を受ける予定だった冒険者だ………そんな中堅冒険者が、二層で大怪我を?」
俺の腕から熱を奪うように、男の体がどんどんと冷たくなっていった。
―――死。
この経験は、俺にとって初めてではない。
親友を失ったあの日が、自分が無力だったあの日の怒りが、自分の中で言い様のない感情という力に変わっていく。
今は無力な自分ではない。あの頃とは違うという囁きが、心の中で何度も反響していた。
「くそっ! これ以上はやらせねぇ!」
「待て! 何かは分からないが、相手は青銅級ですら歯が立たないんだぞ! あぁ、もう! 少しはマトモになったと思ったらこれだっ!」
ショーンの静止を振り切り、俺は二層へと向かって走り出していた。




