⑥自己責任と義務の狭間
歩く事、数十分。
間もなく二層の入口のある広間へと続く通路で、俺達は洞窟内で反響した高い声を聴く。
「何だ? 今、悲鳴のような声じゃなかったか?」
この先で誰かが戦っているのか。俺は一旦立ち止まり、腰に下げた剣に手を乗せる。
その手の上に、ショーンが自分の手を乗せてきた。
「待つんだ。仮に戦いだったとしても、君が助けに行く義務はない」
完全なる自己責任。
義理人情から助けに入って助かる命もあれば、逆に失う可能性もある。余程腕の立つ中級以上の冒険者以外であれば、同業者を見捨てたとしても罰則はない。
人情と薄情が表裏一体の世界、冒険者とはそういう職業である。
ましてや最下級の白級が加勢したとしても、戦力としてはたかが知れている。ショーンは明言こそしなかったが、彼の伸ばした手には、その意図も込められている。俺はそう感じ取った。
「………因みに、冒険解説職には救助に向かう俺を止める権限はあるのか?」
理不尽な力で弱者が捻じ伏せられる光景は、既に経験している。まっぴら御免だ。二度と見たくもないし、静観を決め込みたくもない。脳裏で幼い頃の悪夢が湧き出ては、俺の心に次々と火をくべていく。
ショーンは静かに俺の手から離れていった。
「へ、悪いな。何かあったら助けてくれや」
「………分かった。だが無理はしないでくれ」
俺は背嚢を通路の岩陰に隠すと、ショーンと共に通路を走り抜けていく。
二層に繋がる大広間。
第一層を守護する魔物もおらず、広い空間は静かさを保っていた。
「ここじゃないのか」
てっきり大広間で戦闘が行われていたと思っていただけに、俺の頭は急な冷静さを被る形となった。
「誰か! 誰かいないのか!?」
思わず声を上げていた。
返答はない。
気のせいか。
そう思い始めた頃、二層へと続く階段から一人の中年冒険者が這い出て来た。
「た、助けてくれぇっ!」
大の男の必死な声に、尋常ではない事が起きていると感じ取った俺達は、男の下へと駆け寄る。




