⑤帰るまでが冒険です
採掘は、それほ程難しい作業ではなかった。
ショーンの指示の下、赤みを帯びた部分の周辺を削るように鶴嘴を打ち、手のひらサイズに割っては落としていく。彼自身も手際よく、次々と採掘地点を指示し、三十分もすると、背嚢の中は鉄鉱石で一杯になっていた。
「依頼完了。お疲れ様」
ショーンが短く労いの言葉を送ってくる。
「………何か、道中の方が大変だった気がするんだが」
大黒蟻に何度も遭遇し、命をやり取りを終えた後の作業としては、実に単調で呆気ないものだった。
「そんなもんさ。ただ、浅い層での鉄の含有量は少ないから、背嚢の重さの割には稼ぎは少ない。とは言っても、薬草採集よりかは遥かに多いはずだ」
「………お、おう」
まだ、初めての鉱物採掘を達成した実感がない。
そんな俺の表情を、ショーンは見逃さなかった。
「最後まで油断しない事だ。往路より重量が多くなった分、帰路の方が体力の消耗が大きくなる。帰るまでが冒険………いつも以上に、気を付けてくれ」
「わ、分かってるさ!」
腰の長剣を抜いて、適当に振ってみる。同じ向きでの連撃ならともかく、姿勢や向きを変えてからの攻撃となると、どうしても重量の影響を激しく受ける。
「どうしてもって時には、背嚢を降ろして戦うといい」
「………そうだな」
安全な場所に荷物を置き、戦闘を終えたらまた背負って行けばいい。ショーンの助言は、全くもってその通りであった。
気が付けば、彼の助言に耳を傾けている自分がいた。腹立たしいが、仮に一人でこの迷宮に潜っていたら、無事に帰ってこれたかすら自信がない。
「あぁ、そうだ」
俺は行きの中で考えていた事を思い出す。
「帰りがてら、次の第二層の入口だけでも見ておきたいんだが?」
しばらくは一層の採掘場とギルドとの往復になるが、ゆくゆくは第二層を目指す。そこで、彼を雇っている内に、場所を把握しておこうと考えていた。幸い、迷宮内にも案内板がいくつかあり、往路で第二層に降りる場所の方向は把握済みである。
ショーンは手元の手帳から経路をなぞりながら、帰路を想定する。
「やや遠回りになるが、いいのか?」
「構わない。マズイと思ったら、すぐに最短経路で帰る」
安全と危険を天秤にかける。
「分かった。それじゃぁその方針で行こう」
容易にショーンから許可が下りた。




