④炎を挟んだ会話
「手際が良いな。炭の置き方も悪くない」
「………小さい頃から、やってたからな」
火が安定すると、鍋の中に水筒の水を半分程入れ、さらに数枚の干し肉を放り入れる。
「やらねぇからな」
「流石に初級冒険者から食料を奪う程、がめつくはないよ」
ショーンは鼻で笑いながら、握っていた干し肉を奥歯で噛みしめた。
味は薄くなるが、肉の旨味が滲み出た温かい水と柔らかくなった干し肉は、冷えた洞窟内において御馳走に化ける。体は内外から温まり、短時間で体を労わるには十分である。
「そう言えば、どうして冒険者に?」
半分以上を食べ終えた頃、ショーンの方から雑談がてら話を振ってきた。
「昔ならいざ知らず、今の国内事情なら、農民だってそこまで食うには困らない。わざわざ危険をかってでも冒険者を続ける意味が何だろうと思ってね」
「仲間でもない奴に………言う必要が?」
人の領域に遠慮なしに入り込むような言葉に、思わず冷たく言い返していた。
「いや、無理には聞かない。そもそも、過去の詮索は冒険者にとってマナー違反だ」
分かっているなら何故聞いてきたのか。俺は残りの肉を出汁ごと口の中に流し込んで即答を避ける。干し肉は湯がけば食べやすくなるが、乾物特有の濃厚な旨味が分散してしまう事だけが悩みの種である。
「別に大層な理由じゃない。単に、強くなりたいだけだ」
十年前の幼さが招いた大事件。俺はそれを忘れる事は一生ない。
親友を失い、幼馴染から笑顔を失わせ、村からは厄介者として扱われてきた。
「強くなって、誰にも文句を言われない冒険者になる。そう決めただけだ」
「成程」
ショーンはそれ以上何も尋ねて来なかった。笑いもせず、馬鹿にもせず、彼は焚き火の炎に手をかざしながら、炎の奥に別の世界があるかのような、どこか遠くを見ている目で熱の中心を眺めている。
「………そう言うあんたはどうなんだ? 俺が言うのも変だが、若いくせに冒険者じゃなく、よりにもよって冒険解説職なんてしてるんだよ」
病気や怪我を理由に冒険者を辞める者は多い。冒険解説職も、その半数は引退した冒険者が担っていると言われている。彼らは他の職業に就く事が出来ず、そして何より冒険を忘れられずにこの世界に残っている事が多いとも聞いた事がある。
だが、目の前の男は健康そのもの。冒険解説職になる理由が見当たらない。
「おいおい、冒険者の過去を詮索するのはマナー違反だぞ?」
「きったねぇぞ! お前が先に聞いてきたんだろうがっ! 第一、お前は冒険者じゃないだろう!?」
真面目になったと思った途端にこれである。やはり、冒険解説職にまともな奴はいない。
「さて、そろそろ採掘の仕方を教えようか」
「うぉぃ! 誤魔化すんじゃねぇ!」
自分だけ荷物を早々に片付けるショーンが立ち上がり、手頃な壁を見繕い始めた。
「あぁ、ったくもう!」
相手の調子に乗せられて終わり、休憩の意味がなくなっていく。それ以上はこちらが疲れると割り切り、荷物をまとめると置いてあった鶴嘴を握り、彼の下へと駆け寄った。




