③束の間の休息
「食事や休憩は、出来る内にしておけ………か」
「そう言う事」
ショーンは親指を自分の背後へと向けると、そこには座るのに手頃な岩とその中心に置かれていた古びた鍋や小石で囲まれた焚き火の痕があった。
「冒険者達が残していった野営の名残だよ。迷宮内ではよくある光景の一つさ」
そう言って、彼は平らな岩に腰かけると、置いてあった鍋を手に取ってぐるりと確認する。
「凹みは強いが、穴は開いていない。まだまだ現役だ」
「おぃ、勝手に使っていいのかよ?」
後々冒険者達と問題になる事だけは勘弁したい。
だが、ショーンは顔の前で掌を左右に振って笑っていた。
「問題ない。ここにある物は誰かが用意し、残していったもの。勿論、置いていった冒険者達が再び訪れた際に使う為という事も十分考えられるが、手放した以上、ここにある道具は誰が使っても構わない。そう扱われるのさ」
明文化されていないが、冒険者同士の無言のルールだと彼が説く。
その代わり、使った者は他の冒険者達も使えるように戻しておく事もまた暗黙のルールであり、それができる冒険者は高く評価される。特に余裕のある者は、次の冒険者の為に薪や鍋等を残していく事もあるらしい。
冒険者は競争相手でもあるが、互いに命を懸けた仲間でもある。互いに尊敬の念をもつ事も、大事だとショーンが説く。
「冒険者同士のルール、ね」
残念ながら、この一年、それらしい気遣いを受けた事がない。侮蔑や馬鹿にされる事の方が遥かに多い。だが、公職である彼が言うのであれば、ここの道具一帯の使用は問題ないのだろう。俺も焚き火を挟んで彼の前に座る事にした。
「「…………」」
携帯食と水筒を手に持ったまま、互いに静かな時間が過ぎる。
「火、点けないのかよ」
「え? あぁ、火の点け方なら教えるけど?」
一人で干し肉を食べ始めたショーンの呆けた顔に、俺は溜息をついた。
「そうだったそうだった、冒険解説職様は何もしないんだったな」
やれやれと立ち上がり、俺は周囲から使えそうな炭を拾い集める。
「何か、含みがある言い方だなぁ。あ、炭ならまだ向こうに残っていたぞ」
「へいへい」
言われた通りの場所から炭をかき集め、俺は背嚢から自前の火打石と油脂を多く含んだ実と葉を乾燥させた小さな束を取り出して着火させる。
火花は乾燥した実や葉へ簡単に燃え移り、次に炭へと燃え移ると、後は勝手に炭の隙間から炎が燃え上がった。




