①ぐぅの音も出ない
洞窟に潜って二時間。
「どうだ。少しはマシになっただろう?」
「ぐむむむむ」
目の前に並ぶ大黒蟻の死骸の列を見せられ、俺は唸るしかなかった。
手には長剣、体には一つの怪我もない。
これが自分一人で仕留めたとは、未だに信じられなかった。
言うのは簡単だ。
ならば、やってから文句を言え。
言い合いに近い会話で、半ばヤケクソ気味に始めた流れだったが、ショーンの提案した案は、有効を飛び越えて必勝とも言える戦法だった。
「単独での戦いで最も気を付けるべきは、包囲される事だ。特にリュウ君は、魔法が使えない戦士級、いかに一対一で戦える環境を構築するか、それが重要だ」
「な………成程」
常にショーンは正論で語ってくる。この戦法も敵と広間で戦うのではなく、比較的細い通路を事前に把握した上で誘引し、背後へと回られない戦場を用意しての策だった。こちらも側面に回り込めない点があるものの、包囲されないという一点においては些事として割り切れる。
腕力も速度といった能力が向上した訳でもないのに、戦い方一つで体力の消費も怪我のリスクも抑えられる。こんな経験は初めてだった。
まるで自分が強くなったかのような錯覚に陥りそうだった。
拳を握る俺の後ろで、ショーンが『ただし』と補足する。
「この戦い方は退避先に他の冒険者がいない事が大前提だ。下手をすれば、他のパーティに魔物を押し付ける行為として通報されかねない」
それが明確な違反行為である事は、一年目冒険者の俺でも知っている。故意でなくとも、壊滅しかかっていたパーティに遭遇した別のパーティが、大量の魔物に襲われて二次災害的に壊滅するという話も珍しくはない。
「………分かった」
言っている事は正しい。俺は素直に頷いておく。




