⑦感情の矛先
「た、助かった」
冒険者になって、ここまで追い込まれた事があっただろうか。そう思える程に厳しい戦いだった。単独で四匹の大黒蟻を掃討した事など一度もない。
呼吸を落ち着かせた後、ゆっくりと立ち上がる。まずは落ちていた長剣を回収し、次に地面に突き刺さったままの鶴橋を引き抜いた。
そして最後に、ショーンの顔を睨みつけた。
「死にかけたんだが?」
「………悪いが、冒険解説職は助けない。事前に、そう説明を受けていたはずだ」
相手の反応を予測していたものの、舌打ちが無意識に出る。だが、恐怖と羞恥、勝利の高揚が混ざった感情が俺の行動を限定させてくる。
「俺が死なないよう、助言するのが仕事じゃないのか?」
何故助けなかったのかという論争では勝ち目がない。俺は早々に、相手の仕事の不備を突く事にした。
ショーンはすぐに返さず、壁面に体を預けたままこちらを睨んでいる。すべき仕事をしなかったとギルドに報告されれば、奴も困るはず。
謝罪の一つでも出れば、今後はこちらが優位に立てる。そう計算した。
「確かに、戦闘中に助言する事は出来ただろう。そして、俺は君に助言をしなかった」
「あぁ、その通りだ! だから―――」「仮に俺が助言したら………君は、その通りに動いたか?」
「それは………」
俺はそれ以上、言葉が出なかった。
「出会った頃から何かと反抗的だった君が、俺の助言を素直に聞いていたか、と聞いている。助言をしても、『集中が削がれるから黙っていろ』などと言うのではないのか?」
間違いなく言っていた。俺は口を静かに閉じる。
だが、それを肯定すれば奴の行動が正しかった事を認める事になる。逆に『指示が出ていれば従っていた』と反論すれば、今後その通りに動かざるを得なくなる。
どちらを答えても、こちらが不利になる。
ならば、話を変えるしかない。
「冒険解説職には、俺が死なないよう救助者として振る舞う役割もあるんじゃないのか?」
「それはつまり、今後、複数の大黒蟻に囲まれた場合、依頼を破棄してでも助けろという認識で良いのかな?」
「ぐっ」
藪蛇と化した。




