⑤四対一
「それじゃぁ、後ろで拝見させてもらうよ」
ショーンはまるで子どもに庭で遊んで来いと言わんばかりの笑顔で、二度手を叩く。
その音に反応し、大黒蟻が一斉に俺を睨み付けた。
「クソったれがぁぁぁっ!」
やるしかない。俺は腰の長剣を全力で引き抜いた。
幸い、敵の位置がばらけている。一斉に襲い掛かってくる事はない。俺は、真っ先に迫って来た大黒蟻に焦点を当て、相手の速度と距離を正確に目で測る。
「そこぉっ!」
心の中で刻んだ数字で体を横に反らし、大黒蟻の突撃を寸前で躱す。相手がこちらの動きに合わせるように六本の足踏みで旋回する瞬間を狙い、頭部と胸部の間にある関節部分を狙って剣を振り下ろした。
「まず、一匹!」
いかに硬い外骨格を纏っても、細い関節部分は枯れ枝程度の強度しかない。振り下ろした質量の方が勝り、大黒蟻は首とそれ以外に分かれ、その場で体をバタつかせていたが、やがて動きを止めた。
だが、安心はできない。
「次っ!」
残り三匹。
最奥は一匹だけだが、手前は二匹がほぼ同時に迫ってきている。昆虫のせいか、仲間が死んでも、動揺すら見せようとしない。
一瞬、冒険解説職の男を一瞥するが、彼は岩壁に寄りかかったまま腕を組み、ただこちらを見ているだけだった。
―――冒険解説職は、戦わない。
「畜生っ!」
始めから期待していない。俺は自分にそう言い聞かせながら、二匹の内の左側に視線を絞り、先程と同様にタイミングよく側面へと飛び避け、関節部を一刀両断する。
「二匹目! くっ!」
両断した大黒蟻の上から、仕留めきれなかったもう一匹が這い上がり、正面から飛びかかって来た。何とか、顎と自分の間に刀身を突き出して首を守る事に成功するが、俺は体をのけ反らせたまま大黒蟻の重さをそのまま受け止める形となり、異性の悪さから相手を弾くだけの力を込めらずにいた。
このままだと最後の一匹に無防備な側面を襲われる。強烈な顎で脇腹を裂かれれば、その一撃は内臓にまで達する。
致命傷は避けられない。
それでも相変わらず、ショーンは傍観を貫いていた。
―――冒険解説職は、支援しない。
「うおらぁっ!」
ならばと、全身の力を抜いて敢えて後ろへと倒れ込む。そして背中の接地と同時に大黒蟻の腹部を蹴り上げ、大黒蟻を後方へと弾き出す。噛み合っていた長剣も一緒に手から離れてしまったが、背に腹は代えられない。




