⑧慎重と憶病の差
「んじゃ、後は二人で頑張ってきなさい」
「「あぁ、そんなぁ!」」
男と俺の声が、同じ言葉で異なる意味をもって重なる。
二人して彼女に見捨てられ、互いに目と目を合わせた。
男は手に付いたパンくずを払うように腰の布で払うと小さく咳払いし、手を伸ばしてきた。
今更ながら、男の目が年上としての真面目な顔をつくる。
「君が依頼してきたリュウ君か。俺は、このアリアスの街の冒険者ギルドに派遣されている冒険解説職のショーンだ。短い間だが、よろしく頼む」
「あ………えぇ、よろしく」
冒険者の鉄則その一。すぐに人を信じない。
俺は目の前の手を握るつもり毛頭なかった。
「あらら」
やや苦笑いで、ショーンが手を引く。
さて、これからどうするべきか。
「さて、これからだけど」
俺と同じ思考を彼が声に出してきたので、やや強めに睨みを利かせてみる。
この業界では、舐められたら終わりである。例えそれが冒険から逃げ出した者でも変わらない。
だが、ショーンはやや引き気味に苦笑するだけで、口を閉じようとはしなかった。
「すぐに出発するか? それともまだ準備が必要かな?」
鶴嘴を貸し出す事だけは聞いていると彼が補足し、依頼主である俺に確認を取ってくる。敬語でない点は気に障るが、敬語を使えと命令するのも恰好が付かない。
「いや、携帯食と水を用意しておきたい」
日帰りでも、食事と水は確保すべき。冒険者の鉄則である。
「正しい判断だ。それで、何回分?」
早速ショーンが偉そうに評価を始めた。
「二回分」
「いや、三回分は持っておいた方が良い」
三回分、つまり日帰りに一日分の食料が必要だと彼は言う。
「日帰りの初級依頼なのに?」
思わず眉を潜め、反論していた。
冒険者である以上、慎重は不可欠だが、度が過ぎれば臆病と思われる。それは我慢ならない。
「依頼に関わらず、だ。日帰りなら三回分は持って行った方が良い。どうせ、日持ちするんだ。使わなかったら使わなかったで、明日の食事に回せばいいだけだからな」
言っている事は一理ある。
「金が—――」「それなら大丈夫」
食堂方面から麻袋が飛んでくる。
それをショーンが掴み取ると、俺の目の前に吊るすように見せた。
「冒険解説職の特典その一。携帯食一回分の無償提供………あ、おばさん! それは投げないっ、ひぃ でぇぇ!」
彼の足元に黒光の鶴橋が突き刺さる。
「と、特典その二、鶴橋等の無償貸出」
「………あ、はい」
俺は深く考えず、古びた鶴嘴を床から引き抜いた。




