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君の笑顔をキャンバスに描きたい。

作者: 篠宮 あおい
掲載日:2025/12/03

私は、しがないサラリーマン。

都会に疲れ、週末は田舎に行き、溜め息を吐き、風景を描いている。。。

今日も23時に仕事を終え、特に何もすることなく酒を飲み、床に就く———。

そんな毎日を送っている。


「シュッキンデスカ。タイキンデスカ。」

今日も社内のシフトロボにタイムカードを読み込ませ、帰宅し、また朝8時から仕事だ。

「オツカレサマデシタ。マタアシタ、オマチシテオリマス。」

これからも、そんな一日が続くと思っていた。


もはや揺れることがない満員電車にのり、よろけながら改札を出て、眠い目をこすりながら歩く私の目の前に、横断歩道の前で倒れている少女がいた。

人との交流は指で数える程しかない私だったが、気が付けば少女の傍に行き声をかけ、手をさし伸ばしていた。


「大丈夫ですか。」

「足を挫いてしまったみたいで…助けて下さりありがとうございます」

とても丁寧、かつ満面の笑みでお礼をされ、少しのけぞってしまった私だったが少女が手に持っていた物で全てを理解した。


白杖だった。


私はすぐに少女を抱え、近くの公園に行き、挫いた足を包帯で保護した。私もよく転ぶため都合よく持っていた。

「少しばかり安静にしておいた方がいいですよ」

そう言い残し、私は会社へと向かった。普段は人助けなどしない私だが、この時ばかりは何故か体が勝手に動いていた。

ひとしきり仕事も終え、また23時ごろ帰路に就く。

いつも家では何も余計なことを考えていなかったが、今日ばかりは少女のことを考えていた。


週末のある日、私は田舎に行き現実逃避する為、電車に乗ろうとした。

すると、つい最近聞いた声を耳にした。

「いたた…」

間違いない。あの少女だ。私は気が付けばまた手を差し伸ばしていた。

「大丈夫ですか。」

「もしかして、この間の…」

少女も気が付いた様で「また助けていただいてありがとうございます。」

「生憎、今は包帯を持っていないのでコンビニで買ってきますね」

すると少女が「お願いなんですが、病院まで一緒に行っていただけませんか?」

私は田舎に帰る時間が無くなる…とは思ったものの、大変そうなので承諾した。

かかりつけだという病院に行き少女が怪我したところを治療してもらい、なにやら診察を受けていた。

この病院は来たことがないのに、なんだか懐かしい。


少女は私を病室に連れ、言った。

「いつも助けてくれて...ありがとうございます」

「いえ、大丈夫ですよ。」

「助けて貰ってばかりで、何もお礼出来ないから...」

「お礼なんて...」


看護師さんが部屋に入り、深刻そうな顔で少女に「お話がしたい」と言った。

邪魔になると思った私は、部屋をあとにした。

彼女に何かあったのだろうか。

いや、あまり詮索するのは良くない。そうやって人間に嫌われてきたのだ。


夕刻に家に着いた。

田舎には行けず、絵も描けなかったが、謎に少し充実していた。

明日からまた仕事...。

少し憂鬱になりながらも、軽くご飯を食べ、床に就いた。


任されている大きなプロジェクトも終わり、一息ついた。

あれから1週間程経ったある日のこと。駅のホームで聞き込みをしている若い女性がいた。

写真を見せられ、一言放った。

「この子の事知りませんか?」

見間違えるはずもない。あの盲目の白杖の少女が映っていた。

「あの病院...」

「ありがとうございます!」

まだ話は途中なのだが...そんなことも露知らず、凄く急ぎながらメモ帳に殴り書きしていた。

「これ、私の電話番号です。後で電話します!それでは!」

必要最低限の言葉だけ吐き、50m走を7秒切りそうな足の速さでホームを駆け抜けて行った。

まさに、嵐のような出来事だった。

しかし、そんな事よりも先程の写真に映っていたのは紛れもなく「白杖の少女」だった。

何か、あったのだろうか。

そう思いながら、会社に向かった。


何故だか、仕事が手につかない。

あの少女の事が心配だ。

他人であるはずなのに、何故こんな気持ちになるのか。

「ドウカシマシタカ。」

「ダイジョウブデスカ。」

「問題ないよ」

「カオイロ、ワルイデスヨ。」

「…君たちは顔色の識別まで出来るんだな」

会社に所属しているロボットに心配されたのは初めてだった。


夕刻に電話が掛かってきた。明らかに会社関連の番号ではなかった。

ふと思い、ポケットにしまった紙切れを手に取った。そこに書かれた電話番号は掛かってきた番号と一致している。私はなぜ電話番号が知られているのか...少し戦慄し、困惑しながらも電話に出た。

「突然で申し訳ないのですが、明日病院に来れませんか?」

今日会った、嵐のようなスピードで駆け抜ける女性の声がした。

「分かりました」

なぜOKを出したのか。

私は会社で、生粋のイエスマンだったからだ。


いや、違う。

少女の事が心配だったからだ。

明日はちょうど有給をとっていたので問題は無い。会社に迷惑をかけることもない。

「ありがとうございます!じゃあ明日8時に!」

というとすぐに電話が切れた。




次の日、8時に病院の前に着いた。5分ほど遅れて女性が走ってきた。

「すみません。お待たせしました。行きましょう!」

私は女性の後ろをついて歩き、一度だけ入ったことのある病室の前に着いた。

「数十分話したら...2人きりで話してもいいですか。」

女性の雰囲気が大きく変わった。

怖じけながらも、私は「はい。大丈夫ですよ」と言った。

ガラガラと扉を開け、女性は凄く響き渡る声で「おはよう!」と叫んでいた。

ここが病院ということを忘れているのだろうか。

少し遅れながらも部屋の中に入ると、明らかに衰弱している少女がいた。

私は驚き、喉がぎゅっとしてしまった。

「今日は弥生さんも来てくれてるんだよ!」

と女性が言い放つと、今ある力を振り絞ったかのような声で少女が「来てくれてありがとうございます」と言った。

なぜ少女と女性が、私はまだ名乗っていないはずなのに「弥生」と知っているのかは、聞かないことにした。

1時間程、少女と女性は談笑していた。

私は聞き手に周り、2人の仲の良さを見ていた。

「時間だからそろそろ行くね。」といい、ドアに向かって行った。

「明日も来てね。」少女のその言葉は、とてもか細い声だった。



病院の中にあるフードコートで女性と2人きりになった。

「あの子、もうすぐ死んじゃうんです。」

突然のカミングアウトで私は言葉を失ってしまった。

「どこが悪いんですか。」

「心臓が。」

「…それは治らないんですか?」

「お医者さんには余命1週間って言われました。本当かはわからないですけどね」

「あれから日が経っているので、本当なら明日までです。」

女性は笑顔を見せながらも、今にも泣きそうな顔をしていた。

話を聞くに、女性は少女と仲が良かったらしいが、親が離婚したのをきっかけに離れ離れになってしまったようなのだ。

母親はヒステリック気味で、少女も疲れで病に...ということらしい。

「だからせめて思い出だけでも...」

「…私も協力しますよ」

「いいんですか?お仕事とか…」

「有給。ありますし」

「そんなすぐには取れないですよ」

「大丈夫です。それなりに評価されているので。」

迷いはなかった。少女の笑顔を見れるなら。

盲目なので景色は見れない。

だから最後の思い出に最高の音楽と最高の澄んだ空気を用意することにした。

澄んだ空気は景色の良い所にあるから、結局景色のいいところには行くのだが。

「じゃあ明日、朝から...」

女性は少し泣きながら、去っていった。


明日、私の車で上から見晴らせる穴場スポットに行く事にした。

音楽は女性が作った最高の音楽をかけるらしい。

なんでも、プロなんだとか。


誰かと出掛けるなんて初めてだった。

楽しむなら、折角だからキャンバスも持っていこう。

少しワクワクしながらも、やはり余命の事が頭によぎる。

不安で押しつぶされそうになりながら眠りについた。


当日。

私は車で病院まで行き、2人を乗せた。

2人ともニコニコである。そんなに楽しいのか。

かく言う私も満更でもないのだが。

少女は昨日よりも明らかに顔色がすぐれている。

楽しみなことが顔に出るタイプ…というものだろうか。

車内では何気ない話を二人がしている。

私は楽しそうに話しているのを聞いていた。

なんだか懐かしさもあるこの時間が凄く楽しい。


穴場スポットとやらに無事着く。

空気を感じた瞬間に、思わず目を閉じてしまった。

なぜ良い空気を感じると人は目を閉じ、身体を伸ばすのだろう。

だが、そうするとなぜだか気持ちがいい。


女性が作ったという最高の音楽をかけながら3人で遠くにある景色を見ていた。それだけでかなりリラックス出来ていた。

「この景色をキャンバスに描いてもいいですか?」

「綺麗な景色を描いてくださいね。」

「任せてください。」

景色を描いてくうちに、盲目の少女は言う。

「綺麗な絵だね。」

「見えるの?」

「視えなくても綺麗で美しいのは分かるよ」

私は、見えなくてもそんな芸当が可能なのか?と思ったが、この場においてそれは野暮な話だった。


無事に描き終え、完成したが、何かが足りない。

そしてふと思い、お願いをした。

「君の笑顔をキャンバスに描いてもいいかな?」

すると少女はノータイムで

「いいよ」と言う。

まるで、私が言うのを分かっていたかのように。

お願いをしたものの、私は人物を描くのが苦手だ。

しかし、そんなことはお構い無しに筆は進む。


少し時間はかかったものの無事完成した。

自分でもビックリだが、本当に少女の笑顔にそっくりだった。

私はこれを2人に渡すことにした。

「ありがとう」

二人とも少し泣きながら貰っていた。

私はプロの絵描きでは無いのだが、何がそんなに嬉しかったのだろうか。


日も暮れてきたので、帰ることにした。

楽しい一日というのは、終わるのがとても早い。

それなのに時間というものはいつも一緒らしい。

車に乗り、2人を病院に送った。

少女は既に眠りについていた。


「また景色、一緒に見に行こうね。」

女性は泣きながら言っていた。

そんな泣かずとも、仕事がない日なら行けるのに。

そんなこと考えながら、私も思わず

「楽しかったから、また行きたいですね。」

別れを惜しみながら車に乗り、私は病院をあとにした。


思い出というのはこの歳になってもまだ築けるものなのだと実感した。


家に着くと私は疲れ、ご飯も食べずに眠りについてしまいそうだった。

明日から仕事だからだろうか。横になり、私は眠りについた。

何故か目の奥から水が流れた。

この現象は、何年ぶりだろうか———。






「今日は本当に楽しかったな」

「会えると思ってなかったから。」
















「本当にありがとう。」































「パパ。」






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