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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
最上位魔物

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娘、ユーリについて【リミック】

 「リミック。ユーリは何者だ?」


 ユーリ達が無事に帰り着いたとレーゼルから連絡を受け、私達もすぐさま王城に戻る。


 エルノアヴィルト殿下とセインレッツェル殿下は王妃殿下と昼食を摂るため食堂へと向かった。


 外部に内容が漏れないように防音性に優れた魔道具を発動した陛下は、そんなことを私に聞いてきた。


 「私の娘ですが?」

 「そういうことではない」


 頭を抱えながらも真剣な表情に、質問に対して真面目に答えなければと思う。


 ──先程も至って真面目だったが。


 「リュコスは魔力の多い人間のみを襲う。大勢いた場合、その中で多く持った者をだ」


 陛下が何を言いたいのかはわかる。


 潜在魔力が高いのではなく、現段階での魔力量がおかしすぎる。

 あそこには私や陛下もいたのに。リュコスは目もくれず、ユーリだけに狙いを定めていた。


 そこから導き出せる結論は一つだけ。


 ユーリの魔力は、私達が長い年月をかけて積み上げてきた量を遥かに超えているということだ。

 それは、まだ4歳の幼い少女にしては異常な数値。


 どうする。本当のことを言うか?

 だが、万が一にでも外部に漏れたら……。


 不安が胸を締め付ける。


 ユーリの存在は特別以外の何者でもない。


 全属性持ちなんて前代未聞。それに加えて四体の最上位魔物と神獣が服従した。契約ではなく服従を。


 「ユーリは……“ニュクスの光”です」


 秘密にしておくとは言ったが、これに関してはテロイ家だけで抱えるわけにはいかなかった。


 陛下は無闇に言いふらしたりしないが、家族以外に話すのは妙な緊張がある。


 私の声が聞こえていないのか反応がない。瞬きもなく、私を見ている。

 長い沈黙は動揺を表す。


 御伽噺の存在が実在していたとなると、ユーリは歴史を動かすのではなく、歴史を創る者となる。

 語り継がれる御伽噺はただの物語ではなく、現実世界に影響を与える力を持つ存在。


 ある者達には希望となり、ある者達には絶望となり得るだろう。


 創造主とはすなわち、神。


 「大神殿に知られたら危険だな」


 ようやく口を開いた陛下はユーリの身を案じてくれていた。


 自らを神の代弁者だと豪語する神殿長。そんな男を師事する者だけが、大神殿の神官や巫女になれるらしい。

 それは、規則というより掟に近かった。


 大神殿と各地の小さな神殿では、暮らしぶりに大きな違いがあった。大神殿では毎月一度、神に捧げる華やかな儀式が執り行われ、その際には贅沢な食事が振る舞われる。


 そして、一部の熱心な信者たちからは寄付金が集められ、神殿長の権威がより一層強化されていった。


 しかし、その寄付金は脅しや強制によるものではない。国民は本気で神を信仰し、大神殿を心の拠り所としていたのだ。

 誰もが神殿長の言葉を信じ、彼こそが神の意志を伝える唯一の存在だと確信しているのだから厄介。


 大神殿の実態を掴もうとしたが、あらゆる事実は神殿長の言葉と一致していた。問題があるようには見えず、進展は全くない。


 ただ一つ確かなのは、各地で神殿の人手が不足すると、大神殿から優秀な神官や巫女が派遣されること。彼らは神殿長の教えを忠実に守り、各地の神殿を支えていた。


 要は、やるべきことはやっているということだ。


 ユーリに手を出す前に殺してしまうか?


 「リミック。心の声が出ているぞ」

 「本心です」

 「だろうな。声に感情がなかったぞ」

 「神の代弁者など、いくらでも代わりはいるでしょう」

 「あんな男でも手腕は本物だ。交代してしまえば神殿が立ち行かなくなる」


 神殿長は確かに私利私欲に走りで計算高いが、その手腕は誰もが認めざるを得なかった。神殿の秩序を保つには、その存在が必要不可欠。


 「それに……。本気で神を信じている者達の希望を奪う真似をしたくはないだろう」


 何かに縋らなければ生きていけない人間もいる。


 人か物か。目に見えない不思議な力や存在。


 心の平穏のため。今日を生き抜くために、希望を捨てたくはない。


 「はぁ……。事故で命を落としてくれればいいものを」

 「そういうことは、ここだけの発言にしてくれ」

 「わかっています。話は以上ですか?」

 「ユーリの結婚のことだが」

 「は?まさか政略結婚をさせるつもりか?ふざけるなよ」

 「頼むからその態度は私と二人だけのときにしてくれ。でないと不敬だ何だと騒ぐ者が出てくるぞ」

 「心配しなくても立場は弁えている」


 ならいいと、陛下は困ったように笑う。


 わざわざ人前で面倒事を起こす趣味はない。

 私の失脚を狙う貴族は好機と言わんばかりに追求してくるだろう。


 跳ね除ける自信しかないが、あんな連中のために時間を割きたくないのも事実。


 「子供達に政略結婚を強いることは、そんなに嫌か?」


 政略結婚。それは家族の名誉や利益を守るための手段であり、感情など二の次。


 私が選ぶ道はそれしかないと思っていたのに。


 初めてレーゼルと出会った日、彼女はまるで春のように明るく、周りを温かく包み込む存在だった。


 何かが弾けたように視界が明るくなる。

 急激に熱を帯びる体と、意味もなく彼女の名前を呼びたい自分がいた。


 「私のような《《汚い人間》》でも、妻と子供を愛する、良き夫、良き父親でいたいんですよ」


 打算しかない結婚ではなく、幸せに溢れる結婚を望んでほしいし、してほしいと願う。


 私がレーゼルとそういう結婚をしたから。


 漠然とした未来を思い浮かべたとき、私の隣にいるのはレーゼルであってほしかった。

 レーゼルを幸せにするのは私がいいと思った。


 それは恋であり、レーゼルが笑ってくれるなら私も嬉しいと気付く。


 「ユーリに対して、その想いは強い」


 生まれてからの4年間。ユーリには何もなかった。

 希望の欠片さえ。


 世界はいつも灰色で、無機質な壁に囲まれていた。孤独と無関心の中、ただ静かに日々を過ごすだけ。

 愛情も温もりもなく、自分が人であるということさえ、理解していなかっただろう。


 名前を与えられないのは、生まれたことを祝福されなかったから。


 私と同じ髪色をしていた。たったそれだけの理由で。


 ユーリが望まないからこそ生かしてやっているが、本来ならとっくに消し炭にしている。


 ユーリ。幼く、愛を知らずに孤独に育った女の子。

 人間の醜悪さが渦巻く世界の中で生きてきた。

 劣悪な環境にいたにも関わらず、純粋で優しい心を持っていた。


 独りにはしない。傷つけることもない。


 私達テロイ家(かぞく)が、ユーリが生まれてきてくれたことを祝福するようにその名を何度でも呼ぶ。


 愛おしい私の娘。ユーリが笑顔でいられるなら、私は何でも出来る。


 そう、何でも……。


 陛下との話が終わり、私は深く息をついた。部屋には重々しい空気が漂っている。


 空間魔法を出してもらうようにお願いした。

 これから以上ここにいても、話すことはない。


 手を前に差し出すと、微かな光が指先に集まり始める。次第にその光は大きく膨らみ、空間に鮮やかな扉を作り出す。


 開かれた扉の向こうに足を踏み入れた。景色はすぐさま変わる。


 どんなに広い屋敷でも、家族がいてくれるのであれば温かい。


 「父様!おかえり!!」

 「ただいま」


 駆け寄ってきたユーリを抱き上げれば、レーゼルが微笑ましそうに見つめてくる。


 二人の可愛い息子も私を出迎えてくれた。


 「どうしたの?父様」


 成長に欠かせない食事は充分に取っているはずなのに、ユーリの体重はまだ軽いままだ。小柄で弱々しいのは年齢の問題でもあるのだろう。


 焦らずとも待てばいい。ゆっくりと、ユーリの成長を。


 「いや、何でもない」


 この子はユーリ・テロイ。私の娘だ。それ以上でも以下でもない。


 神にも、何者にも、奪わせはしない。この子と幸せを紡いでいくのは私達だ。

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