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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
最上位魔物

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火蜘蛛は悲しくて優しい魔物でした

 私も戦わなくては。守られてばかりではいられない。


 水魔法なら私も使えるし、ヒュドールの力だって借りられる。


 出し惜しみしている場合ではない。

 

 ノルアお兄ちゃんに降ろしてもらう。


 ──大丈夫。私はやれる。


 自分を鼓舞するように言い聞かせた。


 大切な人達を何者にも傷つけさせない。

 私はもう守られるばかりではいられないんだ。


 周囲の空気がひんやりと冷たくなり、掌に水の粒子が周りに集まり始めた。

 水のエネルギーに包まれ、まるで水そのものと一体化したかのように。


 「この魔力。まさかユーリ?」


 セインの声は驚いていなかった。まるで私が魔法を使えることを知っていたかのようだ。


 冷静に周囲を見渡した。


 木々の間から差し込む薄明かりが、赤く光る火蜘蛛の目を浮かび上がらせている。


 彼らの数は多いが、退路は完全に塞がれているわけではなかった。火子蜘蛛だけなら、まだ何とか退治できる。退却する道は作れるのだ。


 父様達も同じことを考えているのか、僅かに視線が動く。

 後方に道を作るから逃げろとでも言うように。


 最優先するべき命は三人。まずは彼らの安全を確保しなければ。


 シャボン玉のように浮いた水は透明度が高い。

 風に揺られながらも、その水のエネルギーは強く私の意志を映しているかのようだった。


【待て、ユーリ】

 「(アネモス?どうしたの)」

【アクラ山にいると言っていたな】

 「(うん。そうだよ。今ね、火蜘蛛と火子蜘蛛に囲まれているの)」

【火子蜘蛛を殺してはならぬ。火蜘蛛の新たな恨みを買うだけだ】

 「(恨み?どういうこと?)」


 それは最上位魔物だからこそ知り得たこと。


 魔力の流れを切れば魔法も消える。水は全て弾け飛ぶ。


 「父様。少しだけ私に時間をちょうだい」


 心臓がうるさい。速くなる鼓動を抑えるために深く深呼吸をした。


 火蜘蛛の怒りを避けるためには、戦うのではなく、理解と共感が必要だと気付いたのだ。


 私は手を広げ攻撃しない意志を示しながら、火蜘蛛に向かって静かに話しかけた。


 「私は貴方の敵じゃない」


 火蜘蛛の目が鈍く光り、じっと私を見つめる。


 信頼を得るにはまだ遠い、そんな冷たい視線だった。敵意が薄れるどころか、警戒心はより一層強まったように感じた。


 火蜘蛛は数本の足を空へと掲げ、その間から炎の球を作り出す。

 父様達は身構えて迎撃体勢に入るも、私が首を横に振れば真意は伝わり見守っていてくれる。


 火球は直撃せず、私の周囲に落ちては爆ぜた。ヒュドールの時と同じだ。彼もまた、攻撃するつもりはなく、威嚇のためだけに火を放っていた。


 「敵じゃないと信じてほしい」


 火蜘蛛は何も答えない。


 ただ、炎を放つことで私の距離を測り、警戒しているだけだった。私は静かに一歩を踏み出す。


 心の中は緊張と期待で揺れていた。敵意がないのなら、なぜ火蜘蛛は私に近づこうとしないのだろうか。けれど、炎は私の肌に触れることもなく、かすめることすらしない。まるでその境界線が見えない壁のように、私達の間に存在している。


 触れ合える距離まで来た。


 私はそっと手を伸ばし、その温もりを確かめるように火蜘蛛に触れた。

 硬く冷たい甲羅の感触に、彼らの生命の強さと繊細さを感じた。


 「ごめんね。ごめんね……火蜘蛛。貴方の子供をいっぱい殺して」


 私の体を貫こうと振り上げられた火蜘蛛の脚は寸前で止まる。

 火蜘蛛の意志で止めてくれたのだ。


 こんなにも近くに来たからなのか、火蜘蛛の魔力が激しく揺れているとわかる。


 アネモスが教えてくれた。火蜘蛛のことを。


 季節に関係なく、その命の連鎖は途切れることがない。しかし、火蜘蛛には寿命があり、遅くとも1年以内には天へと還る運命にあるのだ。

 

 そのとき、火蜘蛛の魂は地上に残り、新しい命として生まれ変わる。だが、その新たな命は魔物ではなく、普通の蜘蛛として生まれるのだ。


 火蜘蛛も魔物だ。魔物として子供が退治されるのは理解しているが、何もしていない蜘蛛(こども)が殺されていくことに、憤りを感じていた。

 子供達は何も悪くはない。彼らはただ生まれ、命を繋ごうとしているだけなのに。


 火蜘蛛達は人間には見えない特殊な糸で繋がっている。その糸は命の終わりを知らせるものでもあった。

 命の絆とでも呼ぼうか。


 火蜘蛛は魔力を持つが、生まれ変わった子供達には魔力も魔法もない。ただ静かに暮らしているだけ。

 人間の生活を邪魔するつもりもない。蜘蛛の巣が不快に思われることもあるかもしれないが、それさえも彼らの生活の一部であり、自然の営みだった。


 火蜘蛛はようやく喋ってくれた。でも、その言語は魔物語。私には聞き取れない。


【許しを乞うならなぜ、子供を殺した?】


 困っているとアネモスが通訳してくれた。


 真っ直ぐと私を見る火蜘蛛の目に敵意はない。

 魔力も抑えてくれている。話を……しようとしてくれていた。


 「私は許されたいから謝ったんじゃないよ。何も知らなかったとはいえ、大切な子供を殺してしまったから」


 理不尽に命を奪った者が許されたいと願うのはエゴ。

 まずは己の罪を認めて、下心なく誠心誠意謝ることから始まる。

 少なくとも私はそう思う。


【二度と同じ子は産まれない。尊い命を奪ってきたくせに、許しを乞わない謝罪に何の意味がある?】


 その問いは怒りからではなく、深い悲しみから発せられていた。


 「罪を認めて、これからの人生でそれを背負いながら生きていくと決めたから。罪をなかったことにしないために、意味がないとしても謝りたかったの。本当にごめんなさい」


 その言葉と共に、涙がぽろぽろと頬を伝った。

 家族を失った痛みを知っているからこそ、私の胸はまるでナイフで抉られたように痛んだ。


 失った命は戻らない。でも、私達はその悲しみを胸に刻み、生きていくしかない。


【ユーリ。其方の名を聞かれている】

 「私はユーリ。ユーリ・テロイだよ」


 火蜘蛛が空に向かって吐き出した糸は、まるで雪の結晶のような美しい形を作り出していた。その糸はゆっくりと舞い落ちてきて、私の手の平にそっと触れると、まるで水のように溶けて消えていった。


 四回目ともなるとね。もうわかるよ。

 糸も体の一部。私はそれを受け取ってしまったのだ。

 天を貫く赤い光。浮かび上がるのは火蜘蛛の魔法陣。


 「プロクス?」


 か細くやっとの思いで絞り出したような声。触れていた体から伝わってきた。

 つい聞き返すと、眩い光に包まれる。


 ──やってしまったかな。


 恐る恐る振り向くと、みんなただただ苦笑いをしていた。


 これこそ完全な不可抗力。さっきまで魔物語なんて分からず、アネモスに通訳をしてもらっていたんだよ?


 それがいきなり、聞き取れるようになればつい聞き返してしまうのも当然。


 七色の光の渦はプロクスを人型へと変えた。


 その中心から左右に分かれた髪は、片側が鮮やかな赤、もう片側は深い黒に染まっている。

 赤い瞳には黄色が交じり、まるで燃え盛る炎のように輝いていた。彼の服装は赤を基調とし、シンプルながらも洗練されたデザインで、見る者に強い存在感を与えた。


 じぃじやバルのように色気のあるおじさまではなく、ダンディなおじさま。


 「火蜘蛛って雄だったんだね」


 子供を産むのは人間や魔物、昆虫に関わらず女性とばかり。


 プロクスはゆっくりと首を横に振った。


【ワタシハ、ドチラデモ、ナイ】


 カタコト。喋りにくそう。


 アクラ山は火山の噴火だけでなく、多くの魔物の生息地。足を踏み入れる人間は限られている。


 最上位魔物だから人間の言語を理解していると思っていたけど、そうではないらしい。

 人間の言葉を聞くからこそ、理解が出来るようになる。


 アネモスはテロイ家と契約を交わし、ゲールとヒュドールはどんな形であれ人間と関わって生きてきた。

 プロクスは……。憎むべき人間のことを理解する必要はない。


 「じゃあその姿は」

 「初メテ、見タ人間」


 やっぱり。

 ゲールの姿もそうだったし、初めてというのは特別になってしまう。


 「あ!ねぇ、火蜘蛛。どうして私に名前を教えてくれたの?私だって人間なのに」


 私に攻撃する意志がなかったとはいえ、人間であることに変わりはない。

 心変わりするようなこともしてないはずだし。


 多くの疑問が頭を巡るも、答えは出ない。


 「泣イテ、クレタカラ」


 控えめな微笑みは、まるで冷たい冬の夜に差し込む暖かな光のようだった。


 ゲールとヒュドールを超える美しさ。

 日差しがプロクスを照らす。空間を切り取ったかのような佇まい。


 プロクスの手が頬に触れた。ひんやりとしているのに、冷たさは感じない。

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