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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
最上位魔物

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じぃじのライバルだったのです

 「聖域をこんなにしたのは(やみ)魔法を持った人間が過去にもいたってことだよね?」


 私は疲れ切って、少しだけ休むことにした。体力が回復するまでの間、ただぼんやりしているのも退屈で、話を聞くことにする。


【いや。そもそも聖域は人間が暮らしている場所とは多少なりとも異なる】

【聖域で発生する瘴気は訪れる人間の負の感情。それら全てがこの地に落ちて、黒く淀むの】

【俺の森は人間が立ち入ることはないが、リムネ湖には魔物はいなかった。いるのはある日を境に進化した人魚姫(プリンセス)だけ】


 ゲールの声は少し沈み込んだ。


 同じ最上位魔物として何も出来なかった自分を悔いているようにも見えた。


 ヒュドールは温厚で争いを好まない。故に人間が来ても追い返すことはなかった。


 美しい景色を一目見ようと多くの人が訪れるようになり、心の内にある負の感情だけがリムネ湖に取り残された結果。

 瘴気となり腐敗を招いた。


 (やみ)魔法の瘴気は感染病のように人から人へと移り、いずれ国全体を黒く覆う。

 そうなってしまうと(ひかり)と光を掛け合わせた複合魔法でしか打つ手がなくなるという。

 国どころか世界は、黒一色へと代わり数多の命は消えていく。


 もしも、本当に。(やみ)魔法を持つ人がいて、何もわからず使ったとしたら?

 私の胸は重くなった。


【ふふ。ユーリ、もちもち】


 そこそこ深刻な話をしているはずなのに人魚姫(プリンセス)は、私のほっぺたをつんつんしてくる。


 そんなヒュドールの笑顔に、私は少しだけ心が軽くなった。


 「もう、やっ!もちもちじゃない!!」

【ええー、もちもちよ?ほら】


 つんつんの次はぷにぷに。


 傍観者を決め込むゲールに助けを求めるも、しばらく目が合うだけ。動こうとしてくれない。


 体力も回復したのでヴィバル様の元に戻るため立ち上がる。


 子供扱いされるのが嫌なので逃げるように走るも、大人の歩幅ではすぐに置いつかれた。


 「ユーリ!!」


 入り口まで戻るとヴィバル様が抱きしめてくれた。


 ちょ、ギブギブ。苦しい。心の中で叫びながらも、表情は崩さないように努めた。


 「大丈夫か!?どこも怪我はしていないか!?」


 ヴィバル様の声は真剣そのものだった。


 「ん、大丈夫です」


 今まさに意識が飛びそうです。本音は飲み込む。

 怪我はしていないからね。


 「なら良かった」


 ヴィバル様の安心した笑顔は、歳を重ねた紳士の色気に満ちていた。どんな表情でも魅力的で、私の心は少しだけ揺れ動く。


 ──オジサマに需要があるわけだ。


 「ところで。そちらの女性は……」

 「もしかしなくても人魚姫(プリンセス)です」


 うん、意味がわからないよね。

 リムネ湖に行ったはずの私が人魚姫(プリンセス)の真名を教えてもらうだけでなく、恐らく何かしら体の一部を貰ったであろうこの状況。


 さっきまでの刺々(とけどけ)しさなんてなく、ニコニコの笑顔まで浮かべて。

 殺伐とした空気はもうない。


 180度変わったヒュドールの態度に呆気にとられていた。


 「そうだ。海なんだけど」

【ユーリのお願いなら何でも叶えてあげるわ】

 「ほんと?わーい、ありがとう!!」

【はわわ……可愛い!!】


 抱きしめるだけではなく、頬を擦り寄せてくる。


 へ、ヘルプ……。


 「渦潮が収まればまた船が使えるな」


 いや、ちょ……ヴィバル様。そうなんですけど、今はそうじゃないです。

 助けて。


 力が強くて私では脱出不可能。


 ヴィバル様は丸い球体に話しかける。あれが通信魔導具かな。父様の声が聞こえてくるし。


 簡潔に2~3日すれば波は穏やかになりまた船が使えることと、私がヒュドールを服従させたことの二点を報告。


 直後、父様の「は?」につい口をキュッと結んだ。


 「今日はもう仕事を切り上げる。ユーリ。今すぐ帰ってきなさい。きちんと話そうか」

 「は、はい……」


 怒っているわけではないのに、声がやたら疲れきっていた。

 寝ずに仕事をしていたから疲れが溜まってるんだね、きっと。


 ──肩たたきでもしたら少しは疲れが取れるかな?


 ゲールとヒュドールはそれぞれの聖域に戻り、私はヴィバル様と屋敷に帰宅。


 魔力を全部使い切ったせいで、まだ体は本調子ではない。

 あまりスピードを出さないようにお願いすると、馬車は自転車よりもやや遅く進む。


 ゆっくりと流れる景色を窓から眺める。


 イケメンと同じ空間で二人きりというのはやけに緊張する。

 父様とお兄ちゃんは家族だからなのか、そこまで緊張はしないんだよね。


 超絶イケメンではあるんだけど。


 「ヴィバル様」

 「ユーリ。そんな堅苦しい呼び方はやめてくれないか」

 「ですが……」

 「もっと親しみのある呼び方をしてほしいんだ」

 「親しみ……。バル様とか?」

 「様はいらない。この際だ。敬語も外してしまおう」


 親よりも歳上の人を呼び捨てにいいのだろうか?

 純粋な疑問はヴィバル様のしょんぼり顔によって吹き飛ぶ。


 本人が強く望むのだから良しとしよう。


 「えと……バル」


 恐る恐る呼べば、キラースマイルを向けられる。

 あちこちから黄色い歓声が飛んできそうだな。


 イケメンってさ。自分をイケメンと理解してない人を指すよね。


 「バルはじぃじの誕生日パーティーにいなかったよね?バル?」

 「………………じぃじ?もしやそれは、ヴィーロのことか?」


 もちろん。首だけでうなづいた。


 「ユーリ!これからは遠慮することなくそう呼ぶのだ!ヴィーロの前では特に!!」

 「え、あ、はい」


 どうしたんだろ急に。


 私は戸惑いながらもその言葉に従うことにした。急にそんなことを言い出したのかはわからないけど。


 じぃじに対抗心を燃やしているのは間違いない。でも何で?


 うーん。二人は同年代。ライバルなのかもしれない。

 ということはだよ!孫大好き祖父の座を競っているんだ。


 そう思うと、二人の微妙な関係が可笑しくてたまらなかった。


 私はバルの孫ではないのに、そういう風に思ってくれている。


 もしニカルみたいにバルに甘えたら、嫌な顔をせずに受け入れてくれるだろうか?


 馬車が止まった。屋敷に着いたんだ。


 門の前には眉間に皺を寄せて不機嫌オーラ満載の父様がいる。


 ──あれはよっぽど疲れているな。


 「ユーリ。あやつの足にでもしがみついてやるといい」

 「う?」


 よくわからないがそうしてみよう。


 いたずらっ子のように笑うバルにけしかけられて、いざ突撃。


 「父様。ただいま」


 足にしがみつき、見上げた。


 難しい顔はみるみる柔らかくなり、しまいには笑顔を浮かべる。


 「ではユーリ。またな」

 「またね、バル」


 大きく手を振った。ニッコリと笑うバルが馬車に乗り込むと、御者は顔色が悪くなりすぐさま馬を走らせる。


 「ユーリはいつから侯爵を愛称で呼ぶようになったんだ?」

 「今日から!バルがいいよって」


 ──あれ?父様の顔が……。


 「リミック。皺」


 中に入るなり母様が眉間に指を置いた。指摘されるほど父様の表情は険しい。


 「おかえり、ユーリ」

 「ノルアお兄ちゃん。ティアロお兄ちゃんまで。学園は?」

 「明日のために早退だよ。体調を整えておかないといけないからね」


 明日?何か特別なことでもあったかな。

 カレンダーに予定は書かれていない。


 むぅ。除け者は嫌だ。後で何があるのか聞いてやる。


 「そうだ父様。最上位魔物のことで話があるの」


 父様も私と話があるみたいだし、タイミングとしては今だ。


 「書斎に行こう」


 抱っこされたままなので私に選択肢はない。


 人払いをした父様は部屋の鍵を閉めて誰も入れないようにした。


 家族にさえ聞かれてはいけない内容と解釈したようだ。

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