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溺愛少女、実はチートでした〜愛されすぎて大忙しです?〜  作者: あいみ
最上位魔物

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キングゴブリンと出会いました

 暗い森を少し進んだところで、私は大ピンチに襲われていた。


 ゴブリンの群れに囲まれているのだ。

 全身真緑。よくファンタジーで見かける容姿。尖った耳に、腰には藁のようなものを履いている。


 死角なく取り囲まれた。


 風もないのに木々が揺れる。巨大な重圧が上からのしかかり、ゴブリンは花道を作るかのように左右に分かれた。

 奥深くから現れたのは父様よりも背が高くて体格の良いゴブリン。その手には棍棒。大きいな!

 あんなのを振り下ろされたらぺしゃんこ。潰れるのではなくペラペラの紙になる。


【人間の子供がなぜここにいる】


 ほう、なんと!喋れるのか。

 アネモスも喋っていたし、最上位魔物ともなるの格が違う。


 大きな体には癒えない傷跡も多い。左目の傷は深すぎて閉ざされてしまっている。

 どの傷も肉が抉れたように痛そうだった。


【去れ。ここは人間が足を踏み入れていい場所ではない】


 背を向けて敵意がないことを示した。

 キングゴブリンはみんなが言うような凶悪な魔物じゃないのかもしれない。


 私はてっきり出会った瞬間に襲われるものとばかり。

 全身全霊で警戒するのも失礼なので、まずはこの広い森でどうやってキングゴブリンと会うかを考えていた。


 「待って!」


 優しいキングゴブリンを呼び止めた。


 話に聞いていた通りの残忍な性格の持ち主なら、私はとっくにこの世を去っている。


 でも、私がこうして生きていることからわかることが一つ。キングゴブリンは優しいということ。


 奥に戻ろうとする足は止まるも、振り向くことはない。


 「その傷、痛くない?大丈夫?」

【……は?】


 振り向いたキングゴブリンはやや顔をしかめていた。


【お前は俺が怖くないのか?人間は皆、ゴブリンは醜いと口を揃えていたぞ】


 怖い?醜い?


 実際に会うまではそう思っていた。


 ゴブリンというのは悪役のイメージが強く、加えて森に入った人を殺すとなれば恐怖心は抱く。


 目の前にいる大きくて傷だらけのキングゴブリンは、私の知識や情報の通りの生き物ではない。

 無闇な殺生を避けて、暗い森でひっそりと暮らす優しい魔物だ。


 言葉では私の想いは伝わらない。足にギューッとしがみついた。

 敵意も恐怖もないと示すための行動。


【は、離せ人間!!】

 「んぅ、やっ!!」


 嫌なら力ずくで引き剥がせばいい。キングゴブリンならそんなことは簡単。

 ではなぜ、やらないのか。

 私が怪我をするからだ。それをわかっているから手を出さずに、乱暴な言葉遣いで私を遠ざけようとする。


【いいかよく聞け!俺は多くの人間を殺した!この傷がその証拠だ!!】

 「違うよ」

【何?】

 「殺した証拠じゃなくて、守った勲章だよ」


 私はそこまでバカではない。言葉を鵜呑みにして真実から目を逸らすつもりはないのだ。


 他のゴブリン達はほぼ無傷。それが何を意味するのか。

 キングゴブリンが盾となり、仲間を守るために先頭に立ち戦った。


【俺達は……この森で暮らしていただけだ。それをお前達人間が!!魔物という理由だけで殺しに来た】


 揺れる感情。仲間を失った悲しみよりも怒りが勝ち、大地が泣き震える。

 同調するかのようにゴブリンも騒ぎ出す。


 人間にとっては遥か昔のことでも、魔物にとってはつい昨日の出来事。

 忘れたくても忘れられない。記憶は鮮明に色付く。


 平和な日常が突如、人間によって理不尽に壊された。

 報復として近くの街や村を襲った。


 すると今度は人間が、敵討ちのためにやって来る。


 終わらない負の連鎖。


 繰り返される悲劇は人間の王とキングゴブリンによって結ばれた条約により幕を閉じた。


 金輪際、人間はハザックの森に立ち入らない。代わりにゴブリンも人間を襲わない。


 元々、森を住処としていたゴブリンにとって居場所の制限は苦ではなかった。


 人間とゴブリン。互いに約束を守り続けた。

 面白半分で森に入ってくる人間の生死は問わない。自己責任とした。


【人間はいつもそうだ!俺達魔物を見下し、特にゴブリンは知性がないと嘲笑う者ばかり】


 言葉の節々から感じるやり場のない……悲しみ。


 傷ついているのは体だけではない。心もだ。


 「ごめんね。ごめんなさい」

【なぜお前が謝る?】


 人間と魔物。相容れない存在。


 どちらが先に攻撃したかなんて私にはわからない。

 同じものを見ていても意見は食い違う。

 人間側はきっとゴブリンが先に襲ってきたと主張する。


 水掛け論に時間を費やす暇があるのなら、私は相手に謝りたい。

 その出来事に私が関与していなくても、私が人間であるのなら謝罪に少しは意味を持つ。


 失ったものの大きさや数は同じではない。痛み分けとして過去を精算するなんて無理だ。


 「私なんかに謝られたって貴方の痛みが消えるわけじゃない。それでも。聞いてしまったから。貴方の悲しいも痛いも、全部」


 キングゴブリンの足から離れた。


 心から何かを伝えたいときは言葉だけではなく、態度でも示さなくてはならない。


 「本当にごめんなさい」


 背筋を曲げることなく一直線に立つ。右手の上に左手を重ねる。

 90度の深いお辞儀。


 このやり方は会社の先輩に教わったもの。

 先言後礼の原則を守ることで相手に誠意が伝わる。


 ミスはないに越したことはないけど、いつ必要になるかわからない。常識として身に付けておいて損はなかった。


 頭を上げた後もキングゴブリンから視線は外さない。


【お前。名前は?】

 「え?あ……ユーリ」


 キングゴブリンの手から棍棒が滑り落ちる。

 大地にめり込む重さ。


 私に伸ばされた手は不自然なところで止まり、引っ込めようとするからえいっ!と掴まえた。


 「怖くないよ。貴方のこと」


 優しい大きな手。温かい。


 キングゴブリンは額を合わせた。


 「ゲール?」


 体が光った。


 ──今のはキングゴブリンの名前だったか。


 まさか真名を教えられると思っていなかったので油断した。


 周りのゴブリンは一斉に跪く。


 えーーっと?


 ゴブリンの頂点はキングゴブリン。そのキングゴブリンが私に服従したことにより、私が主みたいな感じかな?

 魔物ではなく同じ種族だと、そういうのがわかるのか。


【それで?ユーリはどうして森に来たんだ?】

 「忘れるところだった!あのね、商人がこの森を抜けることを許可してほしいの」

【俺の話を聞いていたか?人間は例外なく殺す】

 「私は殺さなかった!」

【それは……。まだ子供だからだ】


 顔を背けられた。


 本当は殺したくないって思っている。仲間の手前、口には出せない。


 仲良くするつもりはないけど、無闇に命を奪いたくはないのだろう。


 「どうしてもダメ?」

【命令すればいい。俺はユーリの言葉には逆らえないのだから】

 「ううん。それは嫌」


 私達は対等で上も下もないのだ。

 本人の意志をねじ曲げてでも、叶えたい願いではないのでゲールが嫌なら無理強いはしない。


 私はあくまでもお願いに来たのだ。決して真名を知り命令するために、一人で来たのではない。


 平和に暮らしていたところに私が土足で入り込んだのだ。

 引き際は弁えている。


 そもそも、命令なんて私の柄ではない。


【…………手を出せ】

 「ん?うん。こう?」


 両手を差し出すとぽとりと牙が落とした。重みを感じるよりも先に体の中に取り込まれる。


 瞬間、私を包んだ茶色い光が天へと伸びた。


 おお、これは……。


 考えるのはやめよう。私はゲールに言われた通りにしただけ。

 まさか真名だけでなく、牙まで貰うなんて。


 そういえば私、体の一部を貰ったらどうなるかまだ聞いてない。

 魔法陣が刻まれているし、何かしらはあるのだろう。


【これは約束だ】

 「約束?」

【そう。決してユーリを裏切らない誓い】


 風が吹いた。木々を揺らして、私の髪をなびかせる。


 ゲールの表情は変わらない。黄褐色の瞳は静かに私だけを捉えていた。

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